EMIRI 8 元カレが帰って来ると
「そうか、誕生日だったのか」
その日の晩、カウンターに座る恵美莉に、ヒデキが笑顔で言った。
「そうですよ。もう21になりました」
「へえ。お前もっと大人に見えるけどな」
「背がでっかいからでしょ」
「いやいや。色っぽい体してるからな」
「いゃん。何言うんですか」
「そうやって大人になっていくんだよ」
「変な意味で言ってるでしょ。そんなこと言うのマスターだけですよ」
そう言ってバーカウンターに頬杖を突いて、マスターのヒデキがカウンターの空いた席のグラスを片付け始めたのを眺めている。
「でも今のお前、絶好調って感じだな」
「ええ? どこがですかぁ?」
「あっち行ったり、こっち来たり、どこにでも顔出して」
「う~ん、実は今の彼氏は束縛がなくって、楽なんですよ」
「へえ、前の彼氏はガッチガチに束縛するタイプだったのか」
「そうじゃなくって、あたしの方が元カレにべったりだったんだと思うんです」
「ラブラブってこと? なのにどうして別れたんだよ」
「ラブラブってことじゃなくって、もう家族みたいになってて。だって7年も付き合ってたんだから」
ヒデキはカウンターから出て、水で絞ったダスターでフロアのテーブルを拭きながら、横目でチラチラ見ながら話した。
「中学ぐらいからか?」
「うん。あたしその元カレしか知らなかったから、今の生活が新鮮で楽しぃんですよ」
「だから浮気ばっかりしてんだろ」
他の客に聞こえないように小声で言ったが、そんな会話もBGMにかき消されている。
「そんなことないですよ!」
恵美莉は背筋を伸ばして言い返した。
「でもあっちこっち飛び回ってても、そんなことがないと楽しくないだろ」
「ひひひ~、そうかも~って、ち・が・うでしょ!」
「そぉそ、そのノリ、ウケがいいところがノッテル証拠」
「今は誕生日だったから、みんなプレゼントくれたり、おごってくれたりしてるだけですって」
「じゃそんなお前に、俺も誕生月の酒、御馳走してやるよ」
「やりぃ~! 実はそれ期待して来たんですよ」
「だろうな」
「へへへ、バレちゃってました?」
作品名:EMIRI 8 元カレが帰って来ると 作家名:亨利(ヘンリー)