EMIRI 8 元カレが帰って来ると
第1章:幸せなシーン
大学生にしてはちょっと背伸びして着飾った二人。今日は恵美莉のバースデーなのだ。しかもこの二人が付き合い始めて、ちょうど1周年の記念日でもあった。春樹が奮発してコース料理を予約しておいたものの、このお店の雰囲気に圧倒された二人は、テーブルマナーもおぼつかず、隣の席の作法を真似るのに必死だった。
「ヤバイ。あたしサラダに違うフォーク使っちゃったかも」
「俺、お箸ほしいな」
「だしょ~」
「ナプキンで口拭いてもいいんだよな」
「その紙おしぼり、使ったらいいじゃない」
「これ後で手を拭くのに使うんだろ?」
「じゃあ、ひょっとしてこのエビ、手で剥いてもいいってこと?」
「周りにエビ食べてる人いないし分かんねぇよ」
「ふむふむ、カニなら手を使うだろうし、きっとそうよ」
とまあ、こんなふうになんとか難関をクリアしながら、ようやくデザートにたどり着いた。すると周囲の明かりが少し落とされて、テーブルキャンドルの灯りがとてもロマンチックさを演出した。
♪タンタタンタン・タンタ~ン・・♪タンタタンタン・タンタ~~ン・・・・
「♪ハッピーバ~スデー・トゥーユー♪ハッピーバ~スデー・トゥーユー・・・」
ピアノがゆっくりと静かに誕生日の定番曲を奏でたかと思うと、先ほどまで料理の説明をしていた給仕が、とても低い声で歌い出した。そして周辺のホールスタッフもハモりながら、ゆっくりと恵美莉の周囲に歩み寄り、その合唱の後ろからタイミングを見計らって、金色にきらめく花火を立てたバースデーケーキが運ばれて来ると、ホール内にささやかな拍手が沸き起こった。
「ええ? 春樹君・・・春樹君が頼んどいてくれたの~?」
「ああ、誕生日おめでとう、恵美ちゃん」
「ありがとう」
『Happy Birthday to EMIRI & 1st ANNIVERSARY! of YOU2!』
(誕生日おめでとう恵美莉 そして 二人の1周年記念日!)
チョコペンで周囲にそう書かれた白いお皿の中央に、手の込んだ小さなケーキと、赤い石の付いた指輪が1個載っているのを見て、満面の笑みを浮かべる恵美莉に、春樹は少し胸を張るのだった。
春樹が2万5千円ほどをキャッシュレス決済し、二人は大満足でお店を後にした。
「結構高いとこだったのに、大丈夫? 2万5千円ってビックリしちゃった」
「平気だよ。このために賞金貯めてたんだから」
春樹が言う賞金とはプラモデルの賞金である。彼は小学校から大のプラモデルファンで、様々な店のコンテストで度々優勝している実力派である。ただし10万円の賞金でもプラモ購入費や塗料代、その他補材、諸々の出費を差し引くと儲けは僅かなのだが、それを大事に貯金していた。
作品名:EMIRI 8 元カレが帰って来ると 作家名:亨利(ヘンリー)