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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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EMIRI 8 元カレが帰って来ると

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「賞金ってどれくらい貯めてるの?」
「まあまあ」
「まーまーって、どんくらいなのよ」
「もう5年くらい貯めてるからな」
「てことは、1億くらいは・・・」
「あるか! 50万位だよ」
「ええ~? まーまーあるじゃ~ん。じゃもっと贅沢してもよかった?」
「もちろんだよ」
恵美莉は冗談で聞いたのだが、予想に反して涼しい顔で答える春樹。
「ええ! 冗談よ。あたし十分満足したから、もう」
「恵美ちゃんのためだったら平気だよ」
「春樹く~ん♡」
と彼の腕に強く抱き付いた。春樹はまっすぐ歩けずに、
「お、おい。重いっ」
「う~ん春樹君♡春樹君♡♡春樹君♡♡♡」
恵美莉は左手の薬指にはめた新しいリングを、夜空に突き上げるようにして見た。
 絡まり合ってフラフラ歩く幸せな二人のそんなワンシーンを、人の往来でごった返す路上では、意に介する者など一人もいなかった。

 恵美莉を最寄り駅まで見送って、春樹はそのバスターミナルからバスに乗って帰宅する。正確には、バスに乗る春樹を見送ったのは恵美莉の方だ。何せアルコールに弱い春樹は、シャンパンの酔いがまだ抜けず、デザートの後カクテルを2杯も飲んだ恵美莉の方は、全くシラフでいる状態だったから。
 その後、恵美莉は駅舎に入った。改札を抜ける頃、スマホに短い着信音が鳴った。
(春樹君ね。今別れたばかりなのに、今日はご機嫌みたい)そう思って、ポケットから取り出したその画面を見て、にわかに表情が固まった。画面上部に表示された短いプレビューに『そーすけ』と言うワードを見付けてしまったからだ。
(颯ちゃん。あたしの誕生日だからメッセージくれたのか)
それは元カレ、村木颯介からのLINEメッセージだった。
 恵美莉と颯介は、中学1年の時から昨年の春まで、実に7年間恋人同士だった。その間、恵美莉は颯介一筋で、このまま大学を卒業しても、すぐに結婚するくらいの気持ちでいたにもかかわらず、颯介は知り合いの誘いで大学を休学し、カンボジアで小学校設立のボランティア活動に参加するために、恵美莉の元を離れていたのだった。
 恵美莉はそのLINEを表示した。そのことは当然相手にも『既読』が伝わる。しかし恵美莉に迷いはなかった。何故ならそれまでも幾度かメッセージをやり取りしていて、その延長線上の対応でしかなかったつもりだったのだが。