EMIRI 8 元カレが帰って来ると
「先輩、カンボジアに行ったって聞いてたんで、ちょっと私、興味あったんです」
田中が嬉しそうに話すと、
「ああ、昨日帰ってきたところだよ」
颯介も少し自慢げに応えた。
「昨日帰って来たのかい? すぐうちに来てくれてありがとね」
そう言うとおばちゃんは、奥のカウンターに戻って行った。一応、若者の出会いに配慮してくれたのだが、そこに取り残されたような4人は、気まずい空気である。
「何食べてんの? 二人とも今年卒業したばっかりでしょ。俺は懐かしくって、よくここに来るんだ」
そう言いだしたのはキッドである。彼は全く女子に物怖じしない性格なのだ。
「今日、何か予定ある?」
キッドは遠慮なく切り込んでいった。
「私たちこれからライブに行くんですよ」
「へえぇ。誰の?」
「“夜ドラ”です」
「田中が嬉しそうに答えた。
「ミッドナイトドライブかぁ」
「俺ら今からドライブに行くとこだったけど、そっちのドライブに付いて行きたいよ」
「チケット抽選でやっと当たったんですよ!」
「そんなに取りにくいの?」
颯介も話題に入って来る。
「倍率30倍です」
「そうか、そりゃ楽しみだよな。じゃ、ドライブは明日一緒に行かないか?」
「明日ですか?」
「俺が車出すからさ。夜ドラの曲かけながら」
女子二人は嬉しそうなテンションのまま、顔を見合わせている。それを颯介は戸惑いながら見ていた。
「4人で行けば平気だろ。な。これも何かの縁だよ」
結局、偶然出会った2組は、翌日の日曜日にドライブデート(?)の約束をした。そして楽しく会話を続け、お好み焼きを食べ終わると、4人揃って店を出た。そして近くの公園の駐車場に停めたキッドの車で、女子二人を駅まで送って別れたのだった。
「まずいよ。俺、明日、恵美莉に会うつもりなんだ」
颯介が今更ながら気まずそうに話した。
「もうアポとってたのか?」
「いいや、まだだけど」
キッドは、恵美莉と颯介がまだ会う約束をしていないことを知っていた。恵美莉からこの週末、颯介を連れまわしてほしいとお願いされていたからだ。そんな無茶なお願い通りに行動するのは、キッドも恵美莉をこんなふうに利用してきた過去があって、お互い持ちつ持たれつと言う訳だった。
作品名:EMIRI 8 元カレが帰って来ると 作家名:亨利(ヘンリー)