EMIRI 8 元カレが帰って来ると
第5章:キッドのシナリオ
テーブルの鉄板に『千石』の定番メニュー『モダン焼き』が、じゅぅ~と湯気を上げて焼けている。そこにおばちゃんがお好みソースをぶっかけて、マヨネーズで網目模様を描いていくと、香ばしいにおいが湧きたった。
「ああ、この臭い。帰って来たって実感!」
颯介は思わず感涙の声を上げた。
「どっか行ってたのかい?」
おばちゃんが聞くと、
「うん、カンボジアに1年」
「へえ? なんでまたそんなとこに」
「青年海外協力隊ってやつですよ」
キッドが説明した。
「それ、ただで行けるの?」
「はい。でも過酷ですよ。特に食べもんは」
颯介はハニカミながらおばちゃんに言った。その会話を聞いて、すぐ近くでお好み焼きを食べていた女子二人組が反応した。
「あれぇ? 村木先輩ですよね」
「え? そうだけど」
「やっぱり、別人みたいに真っ黒だけど、カンボジアって聞こえたから」
「あ、ああ、覚えてる? ン? どこかで会ったっけ?」
「はい。陸上の2年後輩の田中です」
その女子は笑いながら言った。颯介は高校時代、陸上部に所属して三段跳びの選手だったのだが、この女子のことはあまり記憶にない。
「私、先輩が引退されてから途中で入部したんで、覚えてないですよね」
「・・・ああ、ごめん」
「俺、見覚えあるよ。こっちの彼女」
キッドはもう一人の女子を見ながら言った。
「ああ! 私もなんか覚えあります」
「そうそう。確か君、新体操部じゃなかった?」
「はい。あ、思い出した! プロレス軍団の方ですよね」
その娘はニヤリと笑いながら言った。キッドは高校時代、体操部に所属していたのだが、練習など真面目にせず、マットの上でプロレスごっこをしていたのを見られていたようだ。
「俺、木田です」
「あ、そうだ。思い出しました木田さんでしたよね。私、羽田と言います」
「ああ、ジャージに羽田って書いてあったの思い出したわ」
羽田は恥ずかしそうに笑った。
作品名:EMIRI 8 元カレが帰って来ると 作家名:亨利(ヘンリー)