EMIRI 8 元カレが帰って来ると
カラカラカラカラン・・・
店の玄関を開けるとこの鈴の音が鳴る。キッドが顔をのぞかせると、
「あ、木田君、それに村木君も久しぶりだねぇ。いらっしゃい」
他の客とおしゃべり中のおばちゃんが、来店した二人に笑顔で言った。店は空いているようだ。
「こんにちわ」
「おばちゃん、久しぶりです」
この店は夫婦で切り盛りされていて、特にこのおばちゃんは、そこの高校の卒業生を全員覚えているって言うから、卒業生にも人気の店なのだ。誰もが青春時代の味を求めて、何度も来店している。
「あれ? 今日は恵美莉ちゃんは来てないのかい?」
とまあ、こういう事情通でもあった。
その頃、恵美莉はと言うと、同じく昔から親友の井上奈美と会っていた。
「颯ちゃん帰って来たんなら、私会いたかったのに」
奈美は残念そうに言った。
「そんなこと出来ないよ。昔みたいに話が盛り上がっちゃったらどうすんのよ」
「楽しくっていいじゃない。カンボジアのこと聞きたいしさ」
「別れたのに。あたしにはもうどうでもいい事なの」
「あんたにはそうでも、私は懐かしい友達のままだもの」
「い~~ん! そんなこと言う?」
歯を食いしばりながら、恵美莉は奈美が意外に頼りにならないと知ると、キッドの協力に祈りを捧げたい気分になって来た。
「颯ちゃん、会いたがってるんでしょ? 会えばいいじゃない」
さらりと言う奈美に恵美莉は、眉を寄せ続けている。
「いや、そんなことしない。もしそうなったら、あたし、後戻りっていうか、また離れられなくなってしまいそうで」
「それくらい好きなのに別れなくってもいいじゃない」
「好きとかそう言うんじゃないのよ」
「っもう、それ以上の関係なんだから、肩ひじ張らず自然にしたらいいじゃない。春樹君と結婚の約束でもしてるの?」
「そんなことしてないけど・・・」
「じゃ、まだ未来は決まってないんだったら、自然と成り行きに任せちゃってもいいのよ」
「・・・・・・・・・・・・。」
恵美莉は眉を寄せたまま、宙を見上げて無言で想像した。
作品名:EMIRI 8 元カレが帰って来ると 作家名:亨利(ヘンリー)