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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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EMIRI 8 元カレが帰って来ると

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 結局、土曜の午後、颯介に会いに行ったのは、キッドだった。恵美莉からの電話の押しに負けて(久しぶりに帰国した旧友に会いたい)という程度の理由で、キッドから颯介に電話して誘い出したのだ。
 キッドは、待ち合わせ場所のコンビニへ自分の車で向かうと、颯介が店先のウィンドウの前に一人で立っていた。キッドは駐車場に結構な急ブレーキで颯爽と車を止め、自慢の小型スポーツカーを見せびらかすと、ウィンドウを開けて笑顔でこう言った。
「むっちゃ焼けてるな」
カンボジアから昨日帰国したばかりの颯介は、現地人のように真っ黒。
「お前、いいの乗ってるな」
「ああ、奨学金つぎ込んで買ったんだ。これからまだ3年ローンが残ってる」
「俺も車ほしいけど、今は・・・」
「ま、乗れよ」
颯介は助手席に潜り込むように座った。それもそのはず187センチある彼には、キッドの車は狭すぎた。キッドの方も身長180センチなので、運転席を後ろに下げている、普段は交際相手が座っているその助手席は、前の方にセッティングされていたのだ。そこに颯介は、まるで体育座りのように膝を抱えるようして座った。
「シート、一番後ろまで下げろよ」
「ああ、どこだ? どうやるん?」
「椅子の下のレバー引いて」
「あ。これ・・・」

ガーーーー!

それはキッドが発車したと同時に、颯介がシートのレバーを引いたため、助手席は一気に一番後ろまで下がってしまった。
「びっくりした」
「ハハハ、それでいいだろ」
「ああ。丁度良くなった」
大男二人が乗るには、少し小さい車であることは否めない。
「さ、飯でも食いに行こうか」
「おう、それなら行きたいとこがあるんだ」
「“おばちゃん”とこか?」
「そうだな。久しぶりだから、やっぱり行きたくなるんだよな、あの店」
「ようし! そうしよう」

 そんなこんなで二人が向かう「おばちゃんの店」というのは、高校の時からのなじみの店で、その校門のすぐ近くに暖簾を出すお好み焼き店『千石』である。