EMIRI 8 元カレが帰って来ると
第4章:元カレの帰国
♪スチャラカ♫ちゃんちゃらチャンチャンチャーン♪
金曜日の午後、大学の廊下を歩いていると、恵美莉の携帯が鳴った。その画面に『そーすけ』と表示されているのを見て、口元にムンッと力を入れた。村木颯介からの帰国報告のようだ。恵美莉は(一人でいる時でよかった)と思いながら、迷わずそれを取った。
「もしもし? お帰り!」
明るい元気な声で話し始めると、
「ただいま。フフフフフ」
「何が可笑しいのよぉ」
「久しぶりに声聞いたけど、前のままだから」
恵美莉は電話に出る心の準備は出来ていて、取り乱さず話し始めたが、それが相手に“より”を戻せる安心感に繋がってしまうと面倒だ。
「変わってないのは声だけよ」
「・・・・・・」
一気に突き放すような言い方をしてしまい、颯介は絶句している。
「いつ着いたの?」
「今朝。セントレア(空港)に」
「へえ。そんなとこに到着したんだ」
「うん、名古屋のNPO法人だから、そのあと新幹線で」
「へえ、そうだったのか」
「あの、すぐに会えないかな?」
「いつ? 今から? あたしこれから授業があるよ。そーちゃんどこにいるの?」
「城下公園駅」
「ホントに今帰って来たばかりね。一回家に帰るんでしょ」
「いや、このままでも会いに行ける」
「荷物はどうするの?」
「大したものは持って帰って来てないから、コインロッカーに入れておけるから」
「あたしは今からは無理だよ。授業さぼれないもん」
恵美莉は遠回しだが、はっきりと断っているつもりである。颯介もそれを悟っていたが、
「一回きっちりと話をしたいんだ」
「それなら明日にしない? 今日は家に帰って、早くお父さんお母さんに会うべきだと思うし」
「そうか」
「それにキッドが会いたいって言ってたわよ。あたしから帰って来たって言っといてやろうか?」
「ああ、キッドにも会いたいから・・・」
「じゃ、もう切るね、授業始まっちゃうから」
PoooPoooPoooPoooPooo・・・
むなしく電子音が鳴り続けるのを、颯介は険しい表情で聞いていた。
作品名:EMIRI 8 元カレが帰って来ると 作家名:亨利(ヘンリー)