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一周の意義

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 というではないか。
 これに対して早苗は、自分の境遇とはだいぶ違うが、果たしてそれだけで終わらせていいものかというのをずっと悶々と考えていた。
 そこで思い出したのが、前述の昔の探偵小説だった。
 長年の復讐のために、犯人は、
「俺はこの復讐のために、半生を捧げたんだ」
 と、ずっと言い続けていたということだ。
 最後のトリックとして、
「犯人と被害者は、同じ時期に同じ病院で娘が生まれたのをいいことに、病院で看護婦を買収し、復讐のために、赤ん坊を取り違えるということを行った」
 つまりは、成長してくる子供を使って、自分の手下として、その家庭内に忍び込ませた格好で、不可解なことを現実に行って見せるというやり方だ。大胆であり、
「そんなのミステリーのトリックとしてありなのかよ」
 という批判もあっただろうが、それだけにとどまらず、犯人は最後に探偵にそこまでの犯行を暴露されて、自殺を行う。
 しかし、その自殺も犯行計画の一部で、
「主犯が死んだのだから、もう事件は起きないだろう」
 というのを逆手にとって、その娘に犯行を完結させるという、ある意味完全犯罪だ。
 ここも、トリックとしてありなのかと思うが、考えてみれば、探偵小説などでは、最後に主犯は自殺をすることが多い。それは事件の終幕を意味していたが、それを逆手にとってのトリックは、一周まわって、欺くための隠れ蓑だと思えばいいのだ。
 つまりは、今回の犯罪には、
「一周まわって、また同じところに戻ってくる」
 という発想が生かされているのだった。
 つまりは、早苗が母親の本当の娘であって、さおりの本当の親は、早苗を実の子供と知ってか知らずか、捨ててしまうという、血も涙もない人間だった。
 その人に比べれば、さおりの行為はまだまだ許されるのではないかと思うが、それも、
「血は争えない」
 ということであろうか。
 さおりのこのような常軌を逸した行動は、どこにいるか分からない実の母親が、遠隔操作でもしているかのようだ。
 それこそ、一時期流行った言葉である、
「リモート」
 と言ってもいいかも知れない。
 聡美は実は何となく事件の全貌が分かっていた。早苗を見ていれば分かってきていると言ってもいいだろう。
 警察の捜査は意外とすぐに、さおりを見つけることができた。
 何も知らない江上は放心状態であったが、聡美が彼の元に戻ることはなかった。
「また一周して、おかしなことにならないとも限らないからね」
 と感じたからだったが、
 逮捕されたさおりは、事情聴取にも素直に答えていた。姉の聡美には何んら恨みはないという。ただ、自分の境遇と姉の甘い考えのギャップに悩んでいたのは確かなので、軽い気持ちで、姉の男を誘惑してやろうというのが、本当の最初の計画だったという。
 江上がコロッと騙されたことで計画に火がついたのだが、まさか姉が自分の名前を源氏名に使っているなど思ってもいなかった。
 それを訊いたさおりは、警察の尋問を受けながら、
「そうなんだ。一周まわって、さらにその先に進もうとした私が、どこかやりすぎたのかも知れないし、姉のことを理解しているという思いが、すべてアダになってしまったということになるのかも知れないわね」
 と答えたという。
 人間の感情も、それに伴うまわりの行動とその結果は、すべて、世の中と一緒に回っている。小さく円を描いているものがほとんどなのだが、円を描いているということを理解してくると、人間は、新たな発想を持つもののようだ。
 しかし、一周したことをいいと思うのか悪いと思うのか、それが今回のような犯罪に至るか至らないかという問題提起になるのではないだろうか……。

               (  完  )



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作品名:一周の意義 作家名:森本晃次