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一周の意義

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。今回もかなり湾曲した発想があるかも知れませんので、よろしくです。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。呼称等は、敢えて昔の呼び方にしているので、それもご了承ください。

            家出娘

 大山聡美は今年二十三歳になった。最近まで、東京で一人暮らしをしてきたが、今回、田舎に帰ってきて、実家で暮らそうと思ったのは、理由として、別に都会での生活に疲れたということや、人間関係にウンザリしたというわけではなかった。
 本当はそのままずっと東京で暮らしていくつもりであったが、好きになった相手がいて、その人と結婚したいが、親が認めてくれなかった。
「お前のような家出同然に出て行った娘に、どうして親が義理立てなきゃならんのだい?」
 と言われて、相手にしてくれるわけではない。
「それなら強引に親に許可を得ずに結婚すればいいじゃないか?」
 と言われるかも知れないが、それも、相手の親が、
「そんないい加減な娘と結婚なんて、許さない」
 ということになる。
 好きになった人は屋に対して頭が上がらない人だった。父親を早くに亡くし、女手一つで自分を育ててくれたと言っていた。そんな母親のいうことに逆らうわけにはいかないという彼の意見も分からなくもなかった。
 さすがにそれを、
「親が怖くて結婚なんかできっこないわよ」
 と言えるだけの説得力が聡美にあるわけもない。
 聡美自身、高校の頃から母親と険悪な中で、
「高校を卒業すれば、こんな家、いつだって出て行ってやるんだから」
 という思いを胸に、何とか高校を卒業し、その足で、家を出たのだった、
 家に未練などまったくなかった。ただ、気になっているのが、妹のことで。
「あんな分からず屋の親の元に一人残しておくのはかわいそうだ」
 という思いがあった。
 自分が長女なので、親からの風当たりはすべて自分に掛かっていた聡美は、高校時代まで、
「妹のことを思えば私が盾になってあげないと」
 と思っていたが、高校生の途中くらいから、それが億劫に感じられるようになったのだ。
「なぜ、私が盾にならなければいけないのか?」
 と、我に返ったのだった。
「優しいお姉ちゃん」
 という仮面をかぶってきたことで、妹を甘やかせていたのではないかとまで思ったほどだった。
 確かに妹は甘えていた。自分が盾になっていると思っていたのだが、実は母親は妹にそれほど何も言わない。自分にばかり厳しい。
「あなたはお姉ちゃんなんだから」
 という言葉を絶えず使い、
「私は姉として生まれてきたかったわけじゃないわよ」
 という、売り言葉に買い言葉を浴びせるのだが、その言葉が、よほど母親の癇に障るのか、
「何、生意気なこと言ってるのよ」
 と、殴りかかってきそうな勢いになり、そうなると、もう喧嘩は泥仕合だった。
 どちらかが疲れるまでのつかみ合いの喧嘩になることもあれば、娘が捨て台詞を吐いて部屋に引きこもってしまい、そんな不穏な空気が何日も続くという、家族全体を巻き込んでの、完全に家族内戦争が勃発していくのだった。
 女同士というのも、一度火がついてしまうと、収拾がつかなくなる。しかも親子というとこで、相手の悪い部分が見えすぎるのもあるだろう。
 つまり、お互いにごまかしがきかない。ハッタリが他の人になら通用するのだろうが、相手が肉親であればそうもいかない。
「何を、言い訳ばっかり」
 と、自分でも言い訳だと分かっていることを、面と向かって言われると、引き下がることができなくなるのだった。
 もうこうなってくると、家を出るしか方法はなくなってきた。
 しかし、高校だけは卒業しておかないと、どこかに行ったとしても、仕事も部屋を借りることすらできないと思い、高校時代は何とかやり過ごすことで、やっと家を出ることができた。
 そういう意味で、聡美の中での、
「高校時代」
 というワードは、
「高校時代と書いて、暗黒時代と読む」
 とでもいえるくらいだったことだろう。
 中学時代までの友達は去っていき、早々に一人になった。むしろ聡美にはそれがよかった。いくら友達とはいえ、まわりに人がいれば、それは重たさでしかないからだ。重たさはしがらみでもあり、逃げる場合の障害にしかならない。絶えず逃げることばかりを最前線に考えていた聡美は、友達と離れ、まわりから何と言われていようがまったく気にならない、そんな女の子になっていた。
 だから、高校卒業して、誰も知らないところに行くことに躊躇はなかった。むしろ、誰も知らないのだから、すべてをリセットできるというもので、街を出れば、親から離れれば、自分を知っている人が誰もいないところに行きさえすれば、自分は苦しみから解放されると思っていたのだった。
 だが実際には、そんなことは夢のまた夢だったのだろう。
 高校を卒業して、いきなり東京に出たわけではない。半年ほど地元の県庁所在地にいた。コンビニで昼間はアルバイトをし、夕方からは、スナックで働いた。
 コンビニのアルバイトの帰りに通りかかったスナックの求人募集。未成年でもいいということが書かれていたので、応募した。
 店には、ママさんの他に女の子が四人いた。シフト制なので、もう一人はほしいという女の子からの要望で、ママさんが募集を掛けたのだ。
 未成年だから、アルコールは飲めなくてもいいということでの募集だったが、場末のスナックということで、応募してくる人もほとんどおらず、ママも、自分で広告を出しておきながら、募集を掛けたことを忘れているくらいだった。
 そんな中での応募だったので、二つ返事で採用だった。
 高校を出たばかりで、金銭感覚がまったく分からなかったので、定時された給料が多いのか少ないのかは分からなかったが、実際には少なかったのだろう。
 だが、昼はコンビニでも働いているので、別にそれはそれでよかった。雇ってくれたことに意義があると思ったのだ。
 店の客のレベルは場末の店の割には結構よかった。お客は昔からの常連ばかりだし、話を訊いているだけで面白い。
 聡美は店では、
「さおり」
 と名乗った。
 これは、妹の名前だった。ママさんから、
「源氏名は何にしようかしら?」
 と言われ、
「源氏名?」
 と答えると、
「本名で呼ぶのも変でしょう? お店の中だけのペンネームのようなものよ」
 と言われたので、何にしようかと考える前に、思わず、
「さおり」
 と口走ってしまった。
「それいいわね。あなたは今日から、さおりちゃんよ」
 と秒で決まったのだった。
 聡美も断る理由もないので、自分が妹の名前で呼ばれるのもくすぐったくていいかも知れないと思い、了承した。
 その日から聡美は、さおりでもあったのだ。店におけるさおりは、自分のキャラを、
「何も知らない田舎娘」
 というキャラで売ることにした。
作品名:一周の意義 作家名:森本晃次