キツネの真実
「いつも何か危ないことが起こる時は、自分の中で危険を察知し、何とか最悪の場面を回避することができるのだが、その後で安心するからなのか、その反動からなのか、急に油断してしまうことが多い」
それが、その場面の危機を終わらせることになるのだが、軽症で済んでしまう理由だったのだ。
紗友里は自分で車の運転をすることはなかったが、もし自分が車の運転をしていたとすれば、事故が多かったとしても、そのほとんどはうっかりミスであり、人身事故のようなものはないだろう」
という感覚であった。
そういえば、初めてクラブで先代と会った頃、クラブでの会話で先代が似たようなことを言っていたのを思い出した。あの時、
「分かりますわ。私もうっかりミスが多いので」
と言った時、
「うんうん」
と言って。満足そうにうなずいていた先代の顔を思い出した。
その顔も、ずっと印象に残っていた表情で、その表情がきっと、今までもそうだったように、これからもずっと先代の表情として、自分の中で育まれていくのを感じたのだった。
「紗友里はこれから自分で好きなことをしながら生きていけばいいんだ。会社の方は悟に任せればいいんだからね。それに君には実は妹がいるんだ。彼女は、すでに悟を助けて仕事の方を任せることにしている。私が実は悟に近づけたものであり、最近まで悟は知らなかったことだ。私がすべてを告白すると、私の気持ちが分かってくれた。君の妹は本当に君によく感性が似ている。だが、その感性は仕事向きなところが強い。だからと言って芸術的なところも十分すぎるくらい優秀なんだ。だから、彼女には仕事面では悟を、そして芸術という面では、君を十分にサポートしてくれる。そんな存在だと思うんだ」
というではないか。
すると、病室の扉をノックする音が聞こえ、
「どうぞ」
と先代がいうと、扉が開いて、そこにいたのは、何と温泉で知り合った、舞鶴真由美ではないか。
「お姉さん、これからもよろしくね」
と言って微笑んでいた。
それを見ながら紗友里は、引きつってはいたが、なぜか恍惚の表情になり、顔が真っ赤になっていくのを感じた。
「私、キツネに化かされているのかしら?」
と、思わず呟いていた……。
( 完 )
94
、