小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

元禄浪漫紀行(41)~(50)

INDEX|5ページ/20ページ|

次のページ前のページ
 

第四十三話 おりん






おりんが六つになった頃、おりんも手習指南所に通い始めたけど、その前からおりんは読み書きを知っていた。

俺は、「空風秋兵衛」として、書き物をしている。出来上がった本を受け取ってくると、おりんはそれを読んでもらいたがり、俺の膝によく乗ってきた。

中には子供に向かない読み物もあったけど、大体は、なんてことのない日々が過ぎて行くだけの戯作だ。

俺がゆっくりと読んでやると、おりんは面白がって、口元を両手で押さえながら、くすくす笑っていた。それからおりんは、いつも決まって、「もういっぺん読んで」とねだるのだった。

指南所でどうしているかとおかねが聞くと、おりんは、「先生にほめられた」と言う事が多かった。七つの時におりんが書いた物を持ち帰って来た時、いつの間にか楷書を書けるようになっていて、俺達はびっくりしてしまった。


楷書は、武士階級が読み書きに使うものだ。だから庶民は普通は習わない。でも、おりんは先生に「やってみたい」と願い出て、教わったのだと言った。

俺達はおりんの頭を撫でて、「すごいじゃねえか」、「えらいねえお前さんは」と、ほめた。するとおりんは、「来週から、そろばんもやるんだ」と言ったので、ますます驚いた。


だけど、おりんも結局、指南所は二年でやめてしまった。原因に心当たりはある。



ある日、おりんが持ち帰ってきた宿題を終わらせ、俺が見てやっていた時、俺の後ろには、十四になった秋夫が、煙管をプカプカやっていた。

「おりん、こりゃあ綺麗な字だな。難しいのも書けるようになってきたなぁ」

俺がそう言うと、おりんはにこにこして俺を見上げた。その時、後ろからおりんの宿題に影が差して、振り向くと秋夫も宿題の紙を覗き込んでおり、ぽつっととこう言った。

「はん、俺にゃさっぱり読めねえ」

「そりゃおめえは習ってねえからさ。習えば読める」

俺がそう言っても、秋夫は、「めんどくせぇよ」と言って唇をすぼめ、ふーっと細長く煙を吐いた。

俺がおりんの方に顔を戻すと、おりんはなぜかがっくりと俯いており、顔を真っ赤にしていた。

「どうした、おりん」

そう聞いても、おりんは黙って首を振るだけで、そこから二三日してから、急に「もうやめる」と言ったのだ。