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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(41)~(50)

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第四十九話 盃






秋夫がふらふら遊び歩いていて、おりんもまだ小さかった時の話を、今日は振り返る。

元禄時代と言えば。と言ってすぐに思い出せる人も多いだろう事件が、元禄十五年に終結する。

その前から、江戸では、それぞれどれもまことしやかに、色々な噂が立っては消え立っては消えしていた。



“赤穂事件”

俺の居た現代ではそう呼ばれ、「仮名手本忠臣蔵」にも描かれた事件だ。


説明するまでもないが、公家からの客人が将軍家へ招かれていた日、その城内で浅野内匠頭が吉良上野介へ切り掛かって、捕らえられる。将軍徳川綱吉は浅野へ切腹を申し渡し、浅野はこの世を去った。後に残された四十七人の赤穂義士は江戸の吉良邸へ討ち入りをし、吉良の首を浅野の墓へ供えて四十七士も全員切腹となる。そこで終わりだ。




江戸城から罪人が出てきた!

その触れが伝わったのは早かった。「不浄門」と呼ばれる、“平川門”から、どうやら人が乗せられた駕籠が出てきたらしいというのは、市民にも分かる事で、そこからあらゆる憶測が飛び交い、果ては「明日は上様のお葬式が執り行われる」なんて事を言い出した者も居た。


浅野の切腹は簡素な形式で粗雑に行われ、彼は罪人として、葬儀もせずに泉岳寺に葬られた。俺はその位の事なら知っていたから慌てなかったけど、江戸市中の人達ははっきりした事をまだ知らず、がやがやと騒がしく噂をしていた。


その後大分して、市民にも事が知れてからは、今度は、“浅野か吉良か”の論議が、酔っ払いの間で盛んに行われるようになった。


俺はある晩、珍しく一人で酒屋へ行った。そこには、既に出来上がってしまった中年が二人、それから若い町人と思しき四人連れが居た。

酒を頼みもしない内に、隣の床几に掛けていた酔っ払いの一人が、こう叫ぶ。

「吉良が悪いに決まってらぁ!お侍が城内で抜刀するなんてなぁ、よっぽどだよ!」

その声はあまりに大きく、俺の向こうの壁まで飛んで返ってきた。

「でも浅野様だって、訳はとうとう話さず終いだってぇじゃねぇか」

「口憚る程の事ぉする奴ぁいくらだっていらぁ!だから言えなかったんだよ!」

「そうじゃなくてよぉ、勝手な理由かもしれねぇだろうが!現に吉良様はお咎め無しだぜ!」

「勝手な理由でお侍が刀を使うかよ!」

「それぇ言うならよ!吉良様が勝手な真似ぇするか?あの日ぁ、お公家さんがおいでになったってぇじゃねぇか!」

いつまで経っても平行線らしいのに、酔っ払い二人は酒を飲み続け、喧嘩腰に喋っていた。俺はそれを聴きながら、考えるともなしにこの先に起こるべき事を考え、二杯程酒を飲むと、家に帰った。