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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(41)~(50)

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第四十六話 義理と小紋






俺はそれから、次郎に商売の口利きをしてもらい、次郎と同じように、野菜を売り歩いた。

仕入れる野菜は朝早くに次郎が運んできてくれる。それで荷を分けたら、二人で反対に別れて、とにかく声を張り上げ、なるたけ多くの家で売れるようにと、俺は肩に食い込む天秤棒を我慢した。

他の仲間も「そうと聞いたら黙っちゃいられねぇよ」とめいめいに仕事を探し、俺達は必死になって銭を稼いでいた。

十日、二十日、一月と過ぎると、段々銭は貯まっていき、仲間みんなで集まった時には、「おめえ、今いくらだ」と、江戸っ子らしくもない話で、互いを元気づけた。次郎はみんなに「すまねえ」と言ったが、俺達は「そんな事より、お袋の加減はどうだよ」と聞いた。

「はあ、今はどうにか、まだいい塩梅だが、飯もほとんど食わねぇ…このままじゃ…」

心細そうにしている次郎を、俺達はいつも「大丈夫だ、もうすぐ貯まる。必ずよくなる」と励ました。



それから俺は、途中から女郎屋通いや酒もすっぱりやめて、着物や煙管なんかを売っぱらった。俺に残ったのは、一張羅にしていた小紋が一枚切りだった。

俺の家では、俺が真面目になって、仲間のおっかさんのために働くなんてと、親父もお袋も喜んでくれた。でも、まだまだ俺が苦労を掛けた借金を返す為、二人とも働き詰めだった。

俺は、毎日銭が貯まっていくのが嬉しかったし、“こうやって貯めりゃあ、高い薬だって買えるんだ”と思えば、“働くのも悪くねぇ”と思えた。それに、今さらになって親父とお袋の苦労が分かった。

二人は家の為に必死に働いていたのに、俺はそれを横からぶん取っていったんだ。

“俺ぁ一体今まで何をしてたんだ。なんてぇ事をしてたんだ”

そう思うと親父やお袋に会わせる顔もなかったが、二人は俺に何も言わなかったし、今の俺を喜んでくれていた。俺は自分が堪らなく恥ずかしかった。

“次郎のおっかさんをよくしたら、俺ぁ二人に孝行するんだ、それでいいんだ”

俺はそう思って、次郎が教えてくれる仕事の話を真剣に聞いて、そのまま八百屋になるつもりだった。



そんなある晩、おりんが熱を出した。

おりんは、時々熱を出す。元から体が強くないのかもしれないし、俺が苦労を掛けたからかもしれない。

おりんの熱は五日も下がらず、お袋は半狂乱で、おりんを世話してやった後で、泣きそうな顔を必死に隠していた。



六日目の晩に、親父はおりんの額に手を当て、首を振った。

「ダメだ。先生を呼ぼう。深川まで、俺が呼びに行く」

親父はそう言って立ち上がったけど、お袋が引き止める。

「薬礼はどうすんだい、お前さん」

親父はしばらく黙っていたが、やっぱり俺を見た。

「すまない、秋夫…お前の銭を、少し融通しちゃくれないか。おりんのためだ」

俺だってそんな事は分かっていた。今よくしなきゃ、おりんの方が死んじまうかもしれない。

“でも、これは約束した金なんだ”

俺は、約束を破るのだけは大嫌いだった。そんな事をする奴は江戸っ子の風上にも置けねえと思っていた。