脳内アナフィラキシーショック
「とにかく、今はこの事件の全貌が見えてきていないので、高杉刑事を信じて行動することにしよう」
という門倉刑事の号令の下、捜査は進められた。
実に的を得ていた推理に、誰もがビックリしていた。高杉刑事の推理にほとんど違うことなく時系列という意味でも、それぞれの人間の心理においても、ほとんどその通りだったのだ。
高杉刑事に言わせれば、
「一つのきっかけがあれば、そこから迷うことなく、人間の心理を探っていくと、結果は分かっているわけですから、時系列を逆にたどれば、必ずどこかに行き着くと思うんですよ。それがもし、途中で詰まったのだとすれば、考えを変えるのではなく、そこから見えてくる違う発想を思い浮かべることで、いかに事件を推理していけばいいかがおのずと見えてくるのではないかと思うんです」
と言っていたが、実際には伊藤医師の実験がものを言った。
この事件を解決するために、高杉刑事の中で、
「命にかかわらない、脳内でのアナフラキシーショックを植え付けることで、自分の脳波を覚醒させることになる」
という思いがあったからだ。
なぜ、その思いを持ったのかというと、
「私の助手だった男が私に逆らって、せっかくの脳内アナフィラキシーショックを悪い方に、つまり洗脳する方に使ってしまうことを危惧して、君には悪いと思ったが、それを阻止するために、君にも脳内アナフィラキシーを起こさせ、それが予知能力と、過去に脳を戻してのそこからの予知を可能にするという二手に別れた予知を脳内アナフィラキシーによって起こさせたんだよ。君はよくやってくれた。でも、このおかげで君の中の抗体は消えて、もうハチの毒でショックを起こさなくなったんだ。今後はこの研究を、どんどん広げていって、いずれは、アナフィラキシーショックを失くし、未来にはアレルギー自体を失くして、それによって、ウイルスや悪い菌を絶滅させる力を持った抗体が生まれてくれることを願っているんだ」
と先生は言った。
高杉刑事の力は、これで終わった。もう脳内アナフィラキシーを起こすことはないだろう。だが、彼はこれでいいのだと思った。
「人類の未来などというとおこがましいが、今の時点で、生きた証を残すことができたと思うと、感無量ですよ」
と言って、ニッコリ笑っていた……。
( 完 )
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作品名:脳内アナフィラキシーショック 作家名:森本晃次