続 金曜の夜、人間は二つに分かれる
詩を書くのは難しいと思う。
小学校の頃、国語の宿題に詩が出されたことがある。
先生は、
「詩を作るには、まず、心が何かに感動しないといけません。感動をそのまま言葉にしたものが詩になるのです」と言った。
私はその日家に帰ってからずっと、何かに感動しようと身構えながら過ごしたが、ついに一度も感動しなかった。
翌日、何かいい加減なものを提出したが、詳しいことは忘れた。
記憶に残っているのはY君のことだ。
Y君と私は仲良しで、将棋をしたりして遊んでいたが、彼の詩が先生に絶賛されたのである。うろ覚えだが、こんな詩だった。
「風呂場のガラスに あいうえおと 書いた。
どの字からも しずくが流れた」
〈感動を言葉にするとは、こういうことなのか〉と感心した。日ごろ将棋の弱いY君を見なおした。
ところが、その後のことだが、それと同じ詩が、ある少年雑誌の優秀作品に載っていた。
Y君はそれをうつしたらしい。
感動することは難しいのだ、と確信した私は、それ以来、詩とは無縁になった。
中学一年のころ、詩ではないが、国語の宿題に、俳句が出されたことがある。
いちばん印象に残っているのは、E君の作品だった。
先生は読みあげる前に、E君に、
「お前、俳句というのは、もう少し考えて作るもんだ」と言った。
E君の作品。「動物は森にたくさん住んでいる」
この作品の評価については議論のあるところだろうが、私はとても気に入った。
E君のてれたような顔が忘れられない。
作品名:続 金曜の夜、人間は二つに分かれる 作家名:ヤブ田玄白