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父のメッセージ

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あれから、稀に自宅の壁から何かが落ちることがあった。大抵はバスルームやキッチン・洗面所のタイルなどに吸盤で貼り付けた物で、吸盤が劣化して中に空気が入り込んで壁から剥がれてしまうということは分かっていたし、以前からあったことだった。それでもいつの間にか私は、何かが壁から落ちる度に、父に向けたいろいろな独り言を言うのが癖になっていた。
「心配しないでいいよ。ちゃんとやってるから。」
「もうあれから3ヶ月経ったんだね。」
「お父さんこそ、そっちでちゃんとやってる?」
何かが壁から落ちる度に、私はこんな言葉を小さな声で呟いている。一度母に聞かれてしまい、母に軽く揶揄われた。
「裕子は本当にお父さんが側に来ていると思っているの?」
「まさか、そんなはずないじゃん。無意識のうちになんとなく言っちゃうんだよ。」
そう応えると、母は微笑んだ。
「そうだよね。私も声に出さないけど、心の中でついお父さんに話しかけちゃうよ。」

いつものように、家を出る前にトイレで用を足し、洗面所の鏡で髪や化粧を最終チェックした。すると、洗面台の隣に置いてある洗濯機に吸盤で貼り付けていた、小物を入れるための小さなラックが突然ストンと落ちた。
私はもう家を出なければならない時間だったので、キッチンにいる母に向って声を掛けた。
「お母さん、洗濯機のラックが落ちちゃったから、付けておいて。」
母がキッチンから答える。
「いいよ、付けておくから。」
私は一言付け加えた。
「今日は帰りが少し遅くなるかもしれないけど、晩御飯は食べるから。」
「わかった。行ってらっしゃい。」
私は母に向って大声で「行ってきまーす。」と声を掛けた。それから、もう一度小さな声で呟いた。
「行ってくるね。」
そして私は洗面所を出て、急いで玄関に向かった。
作品名:父のメッセージ 作家名:sirius2014