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父のメッセージ

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父が死んで49日も終わり、少しだけ落ち着いた頃だった。
私は現在26歳で、4年前に大学を卒業して就職し、毎日実家から会社に通っている。私には6歳年上の姉がいて、姉は結婚して、実家から移動時間にして30分くらい離れた場所に、夫と3歳になる娘と住んでいる。その日は土曜日で、夫が休日出勤でいないからと、姉が姪を連れて家に来ていた。父を亡くして気分が落ち込んでいた母を励まそうと、こうして時々孫の顔を見せに来てくれるのだ。私も小さな姪と遊んでいると、父がいなくなってすっかり寂しくなった家が明るくなるようで、嬉しかった。
リビングのソファの上で、私が姪とじゃれ合っていたときだった。リビングに隣接したキッチンで、ガシャンという複数の音が重なったような物音がした。キッチンには誰もいないはずだった。私は、母が腰を浮かせかけたのを制止して、膝に乗せていた姪を姉に渡してソファから立ち上がった。
恐る恐るキッチンに入った私の目に映ったのは、床に落ちて散乱したラップやアルミホイルだった。物音の原因はすぐに分かった。キッチンのタイルの壁に吸盤で貼り付けあったスチールのラックが落ちて、ラックに入れてあったラップやアルミホイルがキッチンの床に散乱していた。
私は、父との最後の会話を思い出していた。父がすぐ側にいるような気がして、辺りを見回した。もちろん、周囲には誰もいなかった。
私はラックを拾い上げて、吸盤の吸着面とそれを貼り付けるタイル面を濡れた布巾で拭い、吸盤を強くタイルに押し付けて付け直した。そして、床に落ちていたラップやアルミホイルを元通りラックに入れて、リビングに戻った。
母に何の音だったのか尋ねられたので、壁に掛けていたラックが落ちていたことを話し、ついでに、母と姉に、父との最後の会話のことを話した。すると、話を聞いた姉が一言だけ言った。
「お父さんらしいわね。」
私には姉の言葉が理解できなかった。
「お父さんは非合理的なことが大嫌いだったでしょ。幽霊だとか死後の世界だとかも一切信じていなかったじゃん。死んだ後に誰かの側にいるなんて、そんなことを言うような人じゃなかったでしょ。」
私がそう言うと、姉は少しだけ笑って言った。
「そうじゃないのよ。お父さんは裕子に自分のことを忘れて欲しくなかったのよ。」
そして、一言付け加えた。
「裕子はお父さんが一番可愛がった末娘じゃない。」
確かに、私は父に可愛がられた。甘やかされたと言っても良いかも知れない。でも、姉の説明は腑に落ちなかった。
「なぜ、お父さんのあの言葉が、私に忘れられないための言葉になるの?」
「そう言っておけば、何かが壁から落ちる度に、裕子はお父さんのことを思い出すでしょ。今みたいに。」
姉の言葉で、私は父のあの言葉の意味を初めて理解した。姉が言ったように、あの言葉は死に直面した父の、私に忘れられないための最後のメッセージだったのだ。
そのとき、ずっと二人の会話を聞いていた母が口を開いた。
「でも、お父さんは本当に今ここにいて、二人の話を聞いているかもしれないよ。」
本気とも冗談とも取れる母の言葉だった。
作品名:父のメッセージ 作家名:sirius2014