小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

Shred

INDEX|9ページ/40ページ|

次のページ前のページ
 

 門林はとんでもないアホだが、親に見放されたという意味では、自分の延長線上にいるアホだ。それに、恩もある。門林に手伝ってほしかったことは、当時四十代後半に差し掛かっていた真壁が、ずっとやりたかったことでもあった。門林も自分の居場所を確保するのに必死だったのだろうが、ポテトチップスの限定味と引き換えに、真壁の父親を壁に叩きつけて即死させた。こちらとしては、ようやく定住の地と遺産を得たのだから、それなりに恩は返してやりたいと思って、八年間面倒を見てきた。しかし、生身の人間をおもちゃとして与えるのは、最初からまずかったのかもしれない。そもそも、その『最初』がほんの気まぐれだった。吉田と川宮の捕まえた男が、『あいつの遊び相手でもなんでもするから、許してくれ』と命乞いし、それを面白いと思って、望みをかなえてやったのだ。男は門林の遊び相手として数日過ごした後、依頼者の元に無事引き渡され、ドラム缶サイズになった。男がいなくなった後、主を失った座布団を門林が寂しそうな顔で見ていて、思った。門林は、ただ自分の横で、同じ目線で遊んでくる人間が欲しいだけなのだと。それから五年に渡って、本来の依頼に混ぜる形で、門林の遊び相手を用意してきた。スマートトイで代用できるかと思って、人間のようにコミュニケーションを取れる玩具のロボットを買ったりもしたが、熱中することはなかった。一応、家族の一員として名前をつけられており、捨てる素振りを見せると怒るから、愛着はあるらしい。そこまで思い出した後で、真壁は小さくため息をついた。しかし、SOS姉ちゃんの耐用日数一日は、さすがに短すぎる。もしやるとしても、次が最後だ。その後のことは、よく考えて決めなければならない。
 どの道、今まで通りに続けてはいられないだろう。
 

 最後の弾倉をポーチから引き抜いたときには、全てが終わっていた。弓削は、フォーカスから降りて穴だらけになったドアに寄りかかると、側頭部にできた傷が上になるよう、顔を傾けた。ホルスターの中で微かに熱を帯びるグロック36は、期待を裏切らなかった。
 五人組の仕事、顔合わせ。言葉通り捉えていた自分が馬鹿だったのだろうか。バイクで宝石を運んでいた十七歳のときと、何が違うのだろう。一つだけ自信を持って言えるのは、頭の中は何も進化していないということ。変わったのは、反応速度だ。そして、場数を踏んだことで、心拍数が跳ね上がるより前に対応できるようになった。
 立体駐車場の屋上という場所は、今思えば初対面の人間が顔を合わせるには危険すぎた。大抵は人が集まるクラブや、大きなショッピングモールの中で行われる。ただ、相手はせっかちな性格だった。弓削は、発信音のような高音の耳鳴りに顔をしかめながら、フォーカスに預けていた体を起こし、自分の足の力だけで立った。運転席と反対の右側だけに弾の痕が集中しているのは、正しく遮蔽物として使えていた証拠だが、そもそもその状況に陥ったこと自体が、プロ失格だ。しかし、これは親分が手配した仕事なのだ。弓削は、グロック36が収まるホルスターに服の上から触れると、歩き始めた。
 あの忌々しい待ち合わせ場所には三人がいた。一人が握手を求めて近づいてきたとき、頭上のカーブミラーに残りの二人の姿が映っていることに気づいた。一人が後ろ手にサブマシンガンを持っていて、そこから先は、訓練が全身の筋肉の上で自動再生されるようにスムーズだった。弓削は、最初のコンマ五秒で一人を撃ち倒した。ミラーに映っていた一人がサブマシンガンを撃ち返し、それがフォーカスの右フロントドアを台無しにした。別の車を遮蔽物にして、車体の下から二人目の足を撃ち、倒れたところで頭にもう一発を撃った。弾倉を入れ替えてさらに場所を変えたとき、同じ方向から回り込もうとしていた三人目と真正面からぶつかった。その手の中で散弾銃が火を噴き、六発全てを撃って飛び退いてから最後の一本を挿し込んだ。反撃の準備ができたところで、三人目の持っていた散弾銃が地面に落ち、六発の内すくなくとも三発は当たっていたということを知った。散弾の一部は柱に跳ね返って、こちらの頭に切り傷を残した。
『何かを見てるってことは、それ以外の全てを見落としているってことと、同じ意味だ』
 命を救ったのは、カーブミラーだけでなく、むしろその存在を意識させた冬本の言葉だった。
 弓削は、屋台にしがみつくように猫背で食事をする客たちを見ながら、歩き続けた。蓮町家は、日本へ移った。あの三人がどうして自分に向けて引き金を引いたのか、蓮町に聞きたいことは山ほどある。もちろん蓮町の手順通り事が運んだら、今ごろ自分はこの世にいない。家はもぬけの殻だし、もう聞ける相手はいないのだ。
 口封じ、用済み、色々な言葉が頭に浮かぶ。
 そういうときのために先手を打てるようになれと、冬本からはずっと言われてきた。だからその通りにしたし、今それが役立っている。移動用の『アシ』である、マーチとライトエース。タトゥーパーラーで最後の仕事をした後、両方にGPS発信機を取り付けた。冬本は夜中に銃を取りに戻ってきたし、いつもと違うことが色々と起きた夜だった。問題は、あと一つ残る発信機をどこに取り付けるか。
 それにしても、冬本はどうして『サンロク』を持って行けと言ったのだろう。弓削は屋台を抜けて静かになった路地で、後ろを振り返った。冬本は、この顔合わせが自分を殺すためのお膳立てだと、知っていたのだろうか。それでも十五年の付き合いだから、一応反撃できるチャンスを与えたのか。もしくは、できることはしたと、後々振り返ったときに鎮痛剤のような役目を果たすことを期待しているのか。考えが足取りを弱めさせたことに気づき、弓削は意図的に頭から続きを払い落とした。答えの出ないことを考えても仕方がない。答えというのは、聞き出すものだ。自分の頭の中を探して回るのは、あまりにも効率が悪い。ライトエースが停まっていた場所から伸びている、ドックに繋がる下り階段。弓削はそれを駆け下りると、桟橋を終点まで歩き、唯一キャビンに電気が点いているヤマハのクルーザーに顔を向けた。ランニング姿の男が、テーブルの上に見慣れたコルトオフィサーズと四五口径の弾を並べて置いていることに気づき、クルーザーの中にずかずかと立ち入ると、ワンが飛び上がるのと同時にグロック36を向けた。
「てめー、なんでその銃持ってんだ?」
 ワンは後ずさり、狭い船室の壁に背中をつけたまま、呟いた。
「あんた、人の船だぞ」
「日本語が達者だな。いや、その銃だよ」
 弓削が言うと、ワンは口角を上げて笑った。
「預かりものだ。おれの銃じゃない」
「正直なのは、いいこった」
 弓削は頭から流れてきた血に片目を瞑り、頭を振った。グロック36の銃口が逸れ、床に転がるボトルが波に揺られてこつんと音を立てたとき、ワンは工具箱の背後に置いてあるナイフを引き寄せながら、言った。
「誰にやられた?」
「知らねーやつ」
作品名:Shred 作家名:オオサカタロウ