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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Shred

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 門林は状況を掴み切れていないように、部屋の四隅と天井、そして窓に視線を走らせた。藤松はその様子を見ながら、思った。自分がまず安心できる場所にいないと、門林は混乱する。そのきっかけがどこにあるのか目で探している内に、気づいた。川宮の片足が、部屋を跨いでいる。
「あの、もう一歩後ろに……」
「え、何?」
 川宮が理解できないように顔をしかめ、藤松は足に目を向けた。
「部屋を跨いでるから……、もう一歩後ろへお願いします」
 川宮は散弾銃の銃口を持ち上げて、藤松の目の前に掲げた。上の銃身から熱気が漏れ出し、鼻を刺す硝煙の匂いが世界共通の警告を放った。
「自分が一歩下がったら、一緒ちゃうの?」
 川宮が言ったとき、門林がもがくように動き、藤松の肩を後ろへ引いた。その庇うような動きに、川宮はわざとらしい笑い声を上げて、藤松に言った。
「なんやお前ら、仲良しになっとるやん。こいつ多分、普通に人とか殺してるから。マジで信用したらあかんで」
 門林は怒りに満ちた目で川宮を見返したが、体を動かすことはなかった。藤松はその様子を見て、真壁からの指示がない限りは、吉田と川宮には手を出さないということを理解した。門林は、自分の領域を侵されることを嫌う。そこには厳密なルールがあり、その中にはコントローラーを挿し込む動作も含まれる。その極端な性格について再び考え始めた藤松の方を見たまま、川宮は言った。
「ちなみに、おれもやられたことある」
「お前が! おれの物を盗るから!」
 門林がそのときの怒りを思い出したように語気を荒げると、川宮は散弾銃の銃口を向けた。そのグリップから安心感を提供されているように手を離すことなく、言った。
「で、手錠の鍵は。持ってない? 持ってる? どっちよ。真壁はどこにおんねん?」
 ほとんど答えを期待していないような川宮の口調に顔をしかめながら、藤松は言った。
「そんないっぺんに聞いたら、分からんくなるから」
 川宮は、座っている藤松の肘を力任せに蹴った。ベッドに体をぶつけた藤松は悲鳴を上げて、うずくまった。
「お前には聞いてへんねん」
 言いながら、川宮は一階を見下ろした。門林が藤松を庇うように前へ出たとき、その目をまっすぐ見返して言った。
「もうええわ。ボケ同士、ゲームでもしとけや」
 川宮は散弾銃の銃口を上に向けると、階段を下り始めた。教師というのは、相変わらずいけ好かない人種だ。
  
  
 弓削は、二階で響く物音を聞きながら笑った。
「揉めてんなー」
 吉田が意識を取り戻し、自分の手に繋がれた手錠を見て、罠にかかった動物のように辺りを見回した。
「おい、吉田さーん」
 弓削が部屋の中から呼びかけると、吉田は言った。
「弓削、真壁にやられた。気をつけろ。川宮は?」
「二階で揉めてるよ。鍵も真壁が持ってんのか?」
 弓削の言葉にうなずいた吉田は、その険しい表情から弓削が鍵を取り返す方法を考えているのではないかと想像したが、弓削は何度も見たコントのオチに行き着いたように、小さく笑っただけだった。
「だっせえ。しばらくそこにいろや」
 蓮町の体を掴むと、裏口に繋がるドアを開けて、弓削は窯のすぐ手前に蓮町を突き飛ばした。手足を縛るロープを解いて、言った。
「さー、どうする?」
 蓮町は予想外のタイミングで自由になった体を呆然と見下ろしていたが、頭より先に体が反応したように駆け出し、体当たりをした。弓削はびくともせず、その脇腹に膝蹴りを入れた。蓮町の体が浮き、地面に倒れたところへ弓削は追加の蹴りを入れた。トレードマークの、鉄板が中に敷かれた革靴。それを蓮町の頭に当てると、弓削は骨の感触を試すように動かしながら言った。
「マジで、どうする? 苦しみながら一時間粘るよりか、今すぐ死んだ方が楽だぞ」
 返事はなく、弓削は回答待ちの時間切れを示すように、足を頭から離した。
「じゃー、おれが決めるわ。殺すのは先延ばしだ」
 弓削は拳を固めると、蓮町の脇腹に打ち下ろした。
  
  
 吉田は、シャッターの鍵が回る音を聞いて、手錠が許す範囲で体を動かした。EKワゴンの影になるようにできるだけ身を隠し、息を殺して耳を澄ませたが、視界が利かないだけで手は外から見える柱に括りつけられているのだから、こちらが不利なだけだ。しかし、スタンガンを当てられた場所はまだ激痛が走っている上に、その傷跡から全身に向けて放たれる無力感のようなものが、頭の中の大部分を占めていた。真壁には、力で絶対に勝てると思っていた。あんな形で不意を突かれるとは。狭い世界の中だけで通用する、くだらないプライド。だからといって折られても平気なわけではなく、むしろ最後の砦のような役割を果たしていた。吉田は、自由が利く方の手でスマートフォンを取り出した。川宮からの着信が入っている。今すぐ折り返すべきか考えていると、シャッターが軋みながら大きな音を立てて開き、光軸のずれたヘッドライトが車庫を照らした。ランドクルーザーが前から入ってきて停まり、運転席のドアが開くのを見た吉田は、EKワゴンの影から出た。言いたいことは山ほどあるし、気持ちを切り替えても来た。長年続いた腐れ縁には、なんの意味もなかったし、それを言葉で伝えてやりたい。しかし、いざ本人と対面すると、今までに築いた関係性は条件反射のように体に現れて、容赦なく邪魔をする。吉田はそれを修正する手間も面倒になり、運転席から降りて来た真壁に向かって愛想笑いを浮かべながら、言った。
「ちょっと、勘弁してくださいよ。あれ、なんすか?」
 白熱電球に照らされる真壁は、ランドクルーザーの前まで歩くと、吉田の目を見返した。吉田は、真壁が両手に何も持っていないことを確認すると、続けた。
「スタンガンみたいな? めちゃくちゃ痛かったですよ」
 真壁の口が開き、声が漏れた。その発音は不明瞭で、吉田は真壁が五十音を順番に読み始めたのではないかと錯覚した。その口の中から血が流れ出したとき、吉田は、真壁の歯が一本も残っておらず、舌自体が切り取られていることに気づいた。
「あーいー!」
 真壁が叫んだとき、吉田はそれが門林を呼ぶ呪文の『足』だと気づいた。
 冬本は、真壁の後頭部にオフィサーズを向けると、引き金を引いた。真壁の頭が柔らかい組織を中心に砕けたようにずれて、吉田は真正面から返り血を浴びた。眼鏡に血がかかって視界が真っ赤になり、真壁の体がその場に崩れ落ちたとき、冬本は言った。
「顔は中の下で、背が高い。吉田さんだな?」
 冬本は二階を見上げた。林を抜けて山道の終点に辿り着いたとき、真壁は小屋に籠って、一人で薪を積み込んでいた。数発殴って床に倒しただけでは口を割らなかったから、歯を順番に折っていった。ランドクルーザーの吉田、キャラバンの川宮。田中のGS350を追いかけた二台。そして、人さらいの仕事。藤松は門林と二階にいる。一通り聞き出した後、安全に家の中へ入る方法を考えて、最善の方法を考え付いた。赤の他人が戻って来るよりは、持ち主に戻ってもらう方が怪しまれない。舌を切り取ったのは余計なことを言えなくするためだが、最後に叫んだ言葉は意味がありそうだ。田中は、二階に大男が一人いると言った。それが門林で、間違いないだろう。
作品名:Shred 作家名:オオサカタロウ