Shred
助手席に座る吉田はスマートフォンを取り出すと、運転席の川宮にメッセージを送った。
『カドバのことは言わんでいいんやな?』
『サプライズや。カチ合わせて、戦ってもらおう』
返信を送り、川宮はガラス片が残るシートの上で体の位置を調整した。真壁一人なら、二人でどうにかできる。門林が頭痛の種だったが、弓削が殺すか、共倒れになるか、結果は別として。弱ったどちらかにとどめを刺すぐらいなら、二人がかりでどうにかなりそうだ。あの錆が浮いたベレッタ686で、生きて出てきた方を撃てばいい。それに、道具をまとめたリュックサックは、運よくランドクルーザーの中だ。ほとんどはロープや懐中電灯など、誘拐以外に意味のないものだが、ガムテープでグリップを補修されたマカロフは別だ。弾は入っていないから役には立たないが、言葉でも素手でも脅せなかったら、これを向けろと言われた。使いどころの有無はさておき、とりあえず抜け出せるとしたら、この道しかない。
そして、そのためには藤松里美にも役割を果たしてもらう必要がある。SOSサインを見ていない可能性もあるが、ランドクルーザーから降りて来た二人組のことは記憶に残っているだろうし、完全に縁を切るとしたら、どんな細い糸も確実に切っておかなければならない。頭の中で考えていたことを口に出すか迷って、川宮は吉田の方を向いた。吉田は視線に気づいて目を合わせると、言った。
「まあ、かわいそうやけど。しゃーない」