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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Shred

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 川宮が馬鹿にしたような口調で言い、吉田は『骨の番』が来ることを予期して、身構えた。しかし、骨を折られるイベントはいつまで経っても起きず、ただ沈黙だけが流れた。俯いたままの弓削が泣いていることに気づいて、吉田は言った。
「おい、大丈夫かお前?」
 弓削は首を横に振った。
「大丈夫じゃねーよ。おれは十年、護衛をやってきたんだ。クビになるだけなら、まだいいけどさ。口封じに殺されかけた」
 吉田と川宮は、顔を見合わせた。川宮は思った。この男はネジが飛んでいるが、復讐にも燃えているらしい。吉田は川宮の考えていることを無言で察し、頑張ってつけてくれた道筋から外れないよう、慎重に言葉を選んで続けた。
「今こうやって生きてるってことは、復讐したい相手がおるってことやな?」
「まあね。おれを殺すなら、人をケチるなと言いたいね」
 弓削は、精密機械のように整った顔を吉田と川宮の両方へ交互に向けながら、言った。川宮が場を仕切り直すように、キャラバンにもたれかかっていた背筋を少し伸ばした。
「それは分かる。殺そうとしてきた奴は、どないして倒したんよ?」
「銃だよ」
 弓削は短く答えて、川宮に言った。
「お嬢を狙ってるわけじゃないんだな? で、あの教師はお前らのタイプなわけ? 大体さ……」
「仕事でやってる」
 吉田は、まだ何か言おうとしている弓削を遮った。川宮に相談なく発言するしかなかったが、相手は間違いなく同じ世界の住人だ。弓削は呆れたように笑うと、言った。
「あー、誘拐か。日本にもいるんだな。儲からねーだろ?」
 吉田は、川宮に会話のボールを渡した。止めたければ、ここで会話を止めるはずだ。川宮はちらりと吉田の方を見ると、言った。
「金にはならん。ある人の依頼でやってる」
「お前らは、個人的な恨みはないわけ? プロの誘拐コンビってことかよ。じゃあ、おれが狙ってる相手も捕まえられるか?」
 弓削の言葉に、吉田は確信を得た気がして、川宮に言った。
「どう思う?」
「相手によるとしか」
 川宮が肩をすくめ、弓削は納得したようにうなずいた。
「まー、そうだろうね。そのある人ってのは、何? 処理する人のことか? おれは向こうでミンチ屋って呼んでた。バラバラに砕いて川に流すからさ。そういう類の奴?」
「火葬やけどね。燃やす設備を持ってる」
 川宮は言いながら、ずっと同じループを回っていた話に突然生まれた裂け目を、強く意識した。今までは抜けると言っていながら、その具体的な方法は一切頭に浮かばなかった。真壁と門林。そして、そこへ取り込まれた自分と吉田。今思えば、未来の誘拐チームが偶然居合わせたあの居酒屋でも、ドアをぶち破ってきたのはきっかけの方だった。
 川宮のスマートフォンが鳴り、完全に座っていた弓削は膝立ちになると、言った。
「出ろよ。無視したら逆に心配されるぞ」
 ポケットからスマートフォンを抜いた川宮は、発信元を吉田に見せて、弓削に言った。
「ある人から、かかってきたわ」
 川宮が通話ボタンを押すと、いつものように通話が始まった。通話時間を示すタイマー表示が出て、緑色だったボタンは、通話を切るための赤色に変わる。ただ、その声を聞くという行為は、この十分間で大きく意味を変えた。
「もしもし」
 川宮が言うと、真壁はいつものように甲高い声で笑った。
「テンション低いなおい、どないしてん。吉田と喧嘩でもしたか?」
「いえ、そろそろ寝ようかと思ってました」
 川宮が言うと、真壁は眠い相手に合わせるように、少しだけトーンを落とした。
「あーそう、すまんねオネムのときに。いや、ちょっと急ですまんのやけど、近日中にもう一人、お願いしたい」
「仕事ですか?」
「そう、吉田は一緒にいてる? おるんなら、スピーカーにしてや」
 川宮は弓削の方を見て、発言しないよう目で釘を刺すと、スマートフォンをスピーカーに切り替えて吉田との間に置いた。
「いますよ」
 吉田が言うと、真壁のくぐもった声が小さく響いた。
「ちょっとお二人。知り合いで消えても問題ない奴、アテないか? 話が通じる奴なら、どんなんでもええわ」
 吉田は川宮の顔を見た。言葉には出さなかったが、その口が『SOS』を形作ったとき、川宮はそれが藤松のことだと理解して、言った。
「えーっと、吉田の知り合いなら、当てはあります。自分はコミュ障なんで、ちょっと」
「そらそうやわな。オッケー、ちょっと段取りお願いしときます。ほな」
 真壁が自分から通話を切り、地面に置かれたスマートフォンを中心に熱を帯びていた空気は、急激に冷めていった。その温度差に首をすくめながら、川宮は思った。ループにできた裂け目は、想像以上に大きい。これは渡りに船なのか、それとも死刑宣告なのか。どちらか分からないが、吉田もその裂け目から出て行くことを考えているのは確かだ。川宮が口を開こうとすると、吉田が意図せず遮る形で言った。
「今のは、真壁って奴。もうええ年の、田舎のボンボンや。近所の老人ホームに福祉車両寄付したり、表向きはまあ、ええ顔しとる」
 弓削は興味を惹かれたように、再び腰を下ろした。吉田は川宮の方を向くと、その目から同意を読み取り、弓削に向き直って続けた。
「こいつの裏の仕事は人さらいや。誘拐って言い方もあるけど、さらった人間を返すのは見たことがない」
 弓削はそういう人間をうんざりするほど見てきたように、顔をしかめた。
「なるほどね。で、火葬場か」
 川宮が吉田の代わりにうなずき、言った。
「炭焼き用の窯やけどな。今の会話の通り、おれらには仕事が入った。あんたが復讐したい相手も、真壁のとこまで連れて行ったら、一緒に粉にできる」
「生きたままやんのか? 死んでから?」
 弓削の言葉に、吉田と川宮は顔を見合わせた。その復讐心は相当なものだ。川宮が言った。
「灰になる前に、どちみち死ぬとは思うけどな」
 弓削はその言葉に初めて笑い、納得したように何度もうなずいた。
「おもしれーな。てかあんたらは、なんでこの真壁ってやつと知り合ったんだ?」
 吉田と川宮は、その言葉をきっかけに、自分たちがどうやって今の立場に落ち着いたかを語って聞かせた。自分の番が来て、弓削は冬本との出会いや、蓮町家で十年間護衛をやってきたときのエピソードを語った。最後に、三人がお互いの名前を知り合って会話は終わったが、吉田と川宮は、門林の名前だけは出さなかった。
「家がねえんだ。このキャラバンにお邪魔していいかな?」
 弓削が言い、吉田と川宮は同じ仕草でうなずいた。
 後部座席のベンチに横たわり、弓削は考えた。これだけ話してしまったら、こいつらも最後には殺すしかないが、この手の稼業をしている人間にしては、殺すことに罪悪感を感じるぐらいに弱い。それにしても、日本に来た意味は確かにあった。冬本と会うことができれば、言いたいことがある。元々五人組の仕事で、三人が現地で自分を待っていた。もう一人分の空き。おそらくそれは、冬本の枠だった。もし話に乗っていたら、冬本もあの場にいたはずなのだ。つまり蓮町は、立つ鳥跡を濁さずの精神で、裏の仕事をしてきた自分と冬本の両方を消す気だった可能性が高い。
作品名:Shred 作家名:オオサカタロウ