小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ポイントとタイミング

INDEX|2ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 現在、人間は神をも恐れぬ強力な兵器を持つに至った。一気に世の中を、
「浄化」
 できる兵器である。
 しかし、それを浄化と言えるのだろうか。
 いるかどうか分からない宗教や神話の世界における神様は、果たして人間による浄化を許すのであろうか。一度人間の手で滅ぼしてしまうと、二度とそこに今までと同じ人間が生まれてくることはないだろう。
 なぜなら、人間が生存できる環境を、自らで壊し、絶滅したからである。
 もちろん、神話の世界における神様というのが、すべて人間のために存在しているわけではない。むしろ、自分たちの都合で人間を混乱させている話もたくさんあったりする。
「だから、神頼みという言葉は、これほど信憑性のないという意味で使われることが多いのだ」
 と言われるゆえんなのではないだろうか。
 ここまで究極に悲観的な話をしてしまったが、ここまで極端でなくとも、人間は徐々に滅亡に向かってひた走っているのかも知れない。
「災いは、音も立てずにやってきて、気が付けば、我々を通り越しているのかも知れない」
 という話を訊いたことがあるが、この言葉が本当で、実際に過去のことであるとすれば、それこそ昔流行ったマンガの決め台詞ではないが、
「お前はもう死んでいる」
 とでもいうのだろうか?
 そういえば、あれも世紀末の話ではなかったか。一体、世の中に起こる世紀末というのは、何なのだろうか?
 前置きが少し大げさになってしまい、ほぼ愚痴のような形になってしまったことをお詫びしながら、お話に入っていくことにしましょう、
 この話の始まりは、令和も二年目に突入したある日のことだった。あるマンションの一室で、一人のチンピラが殺されているのが発見されたのだ。
 そのマンションというのは、借りている人間が、転勤になり、引っ越しが決まって、家具屋荷物の整理を終えて、まさに本日、荷物をトラックにのっけて、部屋自体はがらんどうであり、借主も何もない部屋で寝るわけにもいかないので、ビジネスホテルに一泊し、明日、管理人にカギを返しに行こうと思っていたところだった。
 本来であれば、部屋のカギを閉めていくべきだったのだろうが、うっかり閉め忘れたのをホテルへの移動中に気付いたが、
「どうせ、取られるものも何もないし」
 ということで、翌日、管理人に、
「今日だけカギをかけ忘れていてすみません」
 と言えばいいだろうとタカをくくっていたのだった。
 その部屋を借りていたのは、一人の女性だったが、こう言ってはなんだが、あまり評判のいい人ではなかった。
 むしろ、近所の評判は最悪だったと言っても過言ではないだろう。
 そんな人なので、管理人に誤ればいいとその時は思っても、次の日には忘れていて、肝心のカギを返しに行った時には、カギをかけ忘れたことを謝るどころか、
「お世話になりました」
 という言葉すら言わない可能性は十分にある。
 管理人もそのことは心得ていて。
「どうせ、社交辞令であっても、礼もなにも言わないんだろうな」
 と思っているに違いない。
 新しい場所には、昼過ぎにいけばよかった。ここから一時間ほどの場所で本当であれば、無理に引っ越す必要もないのかも知れないが、正直、転勤先は今と比べてかなりの辺鄙なところである。今勤めている会社は、なかなか社員に対して待遇はよく、都会のような家賃が高いとことであれば、若干であるが住宅補助もあった。だが、それはあくまでも、都会に勤務先があり、都会で家賃を払っている場合である。
 転勤であれ、田舎に勤務地が移れば、今までもらっていた「都会手当」なるものが貰えなくなるのは当然のことであり、本来ほかの会社ではもらえるはずのない手当なので、今までがありがたかっただけなのだ。
 しかし、人間というのは現金なもので、いい待遇も慣れてしまうと、それが当たり前のようになり。少しでも落ちると、会社が冷遇しているように思うのも無理もないこと、だから、文句をいうのは、筋違いであり、通るはずのない要求を無理に押し通しても、それはわがままでしかないのだ。
 だから、勤務地が田舎になるのであれば、少しでも安いところを探して引っ越すことになる、どうせ引っ越すなら、勤務地に限りなく近い方がいいに決まっている。引っ越しを考えるのは当然のことであった。
 しかも、彼女はこの街を引っ越したいという意識が前からあった。この街に執着がないといのもその理由であるが、もう一ついうと、
「私のような人間は、一か所に長く滞在するべきではないんだ」
 という思いがあったからだ。
 れっきとした理由があり、漠然としたものではないが、それを口外することは決してしてはいけないタブーであった。そのことは自分だけの胸に閉まっておくべきことで、人にとやかく言われる覚えもないが、いずれごく近い将来に、そんなことを言っていられないことが勃発するなど、その時は微塵も感じていなかったのだ。
 その女は、昨日最後の荷物をトラックが載せて撤収するまで、マンションにいた。時間的に夕方近くになったのは、転勤時期で、引っ越し屋さんの手配が遅れたことで、午後からしか来れないということがあったからだ。
 それでもないと、朝から動ければ、何もホテルに泊まることもなく、その日のうちに引っ越しが完了していたかも知れないが、ただ、一日で全部やってしまうと、きっと体力的にも精神的にもぐったり来ることは分かっていたので、彼女としては、ホテル代はもったいないと思ったが、
「せっかくだから、たまにはビジネスホテルで一泊もいいかも知れないわ」
 と思ったのだ。
 ホテルの朝食は、バイキング形式で、以前宿泊した時から、朝食のバイキングは好きだった。ビジネスホテルということもあり、さすがに高級ホテルの朝食とは違うが、たまにしか宿泊しないので、ビジネスホテルでも十分だった。
 食事のおいしさというよりも、sの雰囲気を味わうことが一番だと思っていたので、本人としても、十分に堪能できた気がした。スクランブルエッグに、目玉焼き、さらにはゆで卵と、タマゴ料理のオンパレードを楽しめたことが嬉しかった。
――今度、一度自分でもやってみよう――
 と思ったくらいであったのだ。
 早朝はまだこの時期、晴れている時など、放射冷却が気になってしまい、なかなか布団から出るのも嫌なくらいだったが、ビジネスホテルというところは建築的に暖かくできていて、七時に目を覚ましたのだが、目覚めは悪いものではなかった。
 今まで、目覚めでよかったと言えるものがあっただろうか。
 いつも見ているわけではないが、夢を見る時というのは、結構辛いものがある。
 怖い夢を見た時は、その夢の呪縛から逃れられずに、まだ夢の続きを見ているような気がして、うなされている気分になってしまう。逆に楽しい夢だったと思える時は、楽しい夢だったという意識は残っているのだが、実際に目が覚めた時にはその内容を忘れてしまっている。
「記憶の奥に封印された」
 と思うのだった。
 本当は思い出したいのに思い出せないという意識は、まるで、快感を寸止めされたかのようで実に気持ち悪いものである。
作品名:ポイントとタイミング 作家名:森本晃次