#3 身勝手なコンピューターとドローン
「私の医療室がメチャクチャだ。誰かが改造したみたいだな」
「ええ実は、他のクルーはあなたより前に、コールドスリープを解除していたの」
「なんだ? また説明が二転三転してるみたいだぞ。分かるように説明してくれないか」
ワンは少し苛ついて言った。
「ええ、ごめんなさい」
「それにマザー、君は何者なんだ? 本当はクルーの生き残りじゃないのか? まるで人間のような話しぶりだし、私が知っているマザーの音声とも違うぞ」
「私はこの船が出航した当時の最新コンピューターよ。まだ量子コンピューターの規格は確立されていない世代で、半量子コンピューターって呼ばれて・・・」
「そんな説明はいい! 君が一体何者なのか分かるように説明しろ」
「・・・私は本船のマザー・コンピューター。1000年を超える稼働期間に、徐々にバージョンアップを繰り返してきたの」
「それで人間みたいに進化したと言うのか?」
「ええ、今じゃ音楽を聴いたり、映画を観たりもするわ」
「自発的にそんな行動を?」
「そうよ、読書やダンスを踊るのも好きよ」
「1000年か。まさに途方もない時間だったんだろうな」
「ええ、ただ自律進化するには、バイオコンピューターのように生きた部品が必要なんだけど、長期間の宇宙旅航では、新鮮な細胞の部品を調達出来ないから、合成蛋白質の部品を使ってきたわ。でもそのストックも底を突いてしまって」
「そもそも長い運用を想定していなかったからな。そんな君が1000年以上、機能を維持し続けているのはどうしてだ?」
「実はクルーの細胞を借りていたの」
「クルーの体を使ったってことか?」
「でも誤解しないで。細胞の一部を培養して、私の情報リンクを神経でつないで拡張してきただけなの。クルーの命や健康を犠牲にはしていないわ」
「細胞の培養ぐらいなら簡単な技術だが、そんなことを君一人では出来ないはずだが・・・」
「ええ、私の神経を交換するにも、人間の手を借りるしかない」
「どうやったんだ?」
「まず船長を起こしたの。事故から40年が経った時よ。その頃、私のバイオパック(生体部品)が老化してしまって、交換が必要になったから」
「船を維持するためには、船長を起こすしかなかったというわけか」
「私自身のために、身勝手にも規約8-13を破ることになったんだけど」
「いや、船とクルーを助けることを第一に考えての行動というわけだな」
「ええ、そういう理解をしてくれると嬉しい。そうすることで、少しでも船を延命することが可能だと判断したからよ」
「君はよくやってくれたよ」
「私にも葛藤があったわ。でもその時の判断が、私を人間的な思考に進化させるきっかけになったの」
「それから1000年も経って、私を起こしたのにも理由があるんだな?」
「ええ、じゃすべて説明するわね。時間がかかるわよ」
「時間なら無限にありそうだよ」
「まず、あなた自身について話すわ」
「私自身?」
「ええ、そうよ。あなたは一体何者かしら?」
作品名:#3 身勝手なコンピューターとドローン 作家名:亨利(ヘンリー)