#3 身勝手なコンピューターとドローン
マザー・コンピューター
「君はコンピュータらしくないぞ。どういうことか解りやすく説明してくれ! ひょっとして、この部屋のどこかにいるのか!?」
「ドクター・ワン、お願いだから落ち着いてちょうだい。私はこの船のセンサーを通して、どこにでも存在するわ。私を人間みたいに感じるんだろうけど、あなたの精神状態を考えて、少しは忖度した対応も出来るの」
「目覚めた途端に、変なコンピューターから皆死んだと聞かされて、混乱するに決まってるだろう」
ワンは再び、補水液のボトルをつかんで、勢いよく飲み始めると、
「ごめんなさい・・・。ドクター・ワン」
マザーはゆっくりと、とても優しく言った。
「・・・・・・」
空になったボトルを、床に落とした後、落ち着きを取り戻すために、深く溜息をついた。
「ありがとう。冷静さを保ってくれて。でも、それより聞いてちょうだい。あまり悲観的になる必要はないのよ。実は皆を目覚めさせることも可能なの」
「死んだ者を生き返らせるとでも言うのか?」
「DNAからクローンを再生し、彼らの記憶を再インストールすればね」
「どういうことだ? そんな技術聞いたことがない。医者である私が知らないような技術が存在するのか?」
「ええ、この船が地球を出発した当時には、まだ無かった技術よ。その後、自己成長型のバイオ量子コンピューターが作られて、人の記憶を保存する方法が開発されたの。そのコンピューターは開発者の飛鳥山教授にちなんで、『飛鳥山コンピューター』って呼ばれてたそうよ」
「飛鳥山博士なら知っている。長年行方不明だったが、実はコンピューター内に意識として存在し続けていたっていう噂は、誰でも聞いたことがある」
「ええ、有名な話ね。その飛鳥山(コンピューター)を使って、彼の教え子の宇野睦美とその息子のドクター・カズ(和博士)が、人の記憶の保存方法を発明したのよ」
「じゃ、人は無限に生き続けることが出来るのか」
「技術的にはね。でも倫理的な観点から、このテクノロジーは封印されてしまっているの」
「それじゃ、君はその技術を手に入れることは出来たのか?」
「深宇宙で事故に遭遇したこの船のクルーには、将来必要になるかもしれないから、特別に承認されて、事故から50年以上経ってから、その手順が送られて来たのよ」
「じゃ、なぜ彼らを生き返らせないんだ?」
「ここでは無理なのよ。設備の整ったラボでないと」
ワンはようやく目を開けて周囲がぼんやりと見えるようになってきた。手で周囲にあるものをつかんで、かすかな明かりの見える方にゆっくりと歩きだすと、
「気を付けて、その先には医療キャビネットが設置されていたけど、今は取り除かれて、床にケーブルが散乱してるから」
ワンは立ち止った。
作品名:#3 身勝手なコンピューターとドローン 作家名:亨利(ヘンリー)