逆さ絵の真実
真犯人の知らないところで、主犯の犯行に気付いた、あるいは見ていた人がその人に疑いが及ばないように偽装工作をする場合である。その時は、もし真犯人が捕まっても、共犯の存在は分かっていても、それを訴えたとして。誰も信用してくれないだろう。それが事後共犯の場合と普通の共犯お違いの説明になる。
今回の場合は事故共犯であった。真犯人である教授に対して、事後共犯を行った人物がいた。その人物は一体誰なのか、それがこの事件の最大の注目点である。
「全体を把握していて、冷静な目で事件を見ることができる人、それは一人しかいないではないか」
ということで、浅川刑事が考えているのが、準之助だった。
また、逆さ絵というものが、伝統のように、伝承されるものではなく、師匠と弟子という関係ではあっても、決して受け継がれるものではないということも、忘れてはいけない事実だった。
ただ、どちらにしても犯行を裏付ける証拠がどこにもない。それが一番のネックであった。
やはり動機は逆さ絵というものに対しての執着心が引き起こした犯罪だった。ただ、これは準之助に関わることではなく、あくまでも教授が羽村の作法を知りたいところから始まった。だから、そのカモフラージュとして、準之助に勝負を挑むという一見意味不明の行動をしたのだ。
だが、相手が悪かった。準之助はいち早く教授の考えを見抜き。それを利用しようと考えた。クスリを使って一時的な記憶喪失にさせるつもりだったが、まさかここまで効いてしまうとは思わなかったのだろう。準之助自身も、羽村が逆さ絵をやっているということを誰かから聞いて、自分以外に、しかも芸能人なんかにできるわけはないというプライドが彼をハイド氏に仕立て上げたのだ。
ジキルとハイドは羽村ではない。準之助の方だったのだ。
そのことは、分かっていても証拠がない。地道に見つけていくことで、追い詰めていくしかないのだろうが、浅川刑事の考え方として、
――果たして、その頃まで、自分がこの事件に対して今と同じ気持ちでいられるだろうか?
と感じた。
犯人を推理してしまった時点で、すでにこの事件に対して興味を失ってしまっていることに気づいた浅川刑事だった……。
( 完 )
94
、