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謎を呼ぶエレベーター

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。芸能ニュースで、聞いたことがあるようなと思われる酷似の事件があるかも知れませんが、あくまでも、一般的なフィクションとしての物語なので、そのところもご了承ください。

            姉の殺害事件

 大きな街ともなると、歓楽街は、通路によって、店の種類で別れているところも少なくはない。昼間利用する百貨店、商店街、高級ブランドの店や、本屋だったり、ンチなどで利用するカフェや、レストラン数え上げれば、キリがない。
 さらに、仕事が終わってからの居酒屋やカラオケ、バーなどのような店が五時以降は賑やかになっていくが、九時を過ぎると今度はスナックやクラブなどの店、さらには、いわゆる風俗店と呼ばれる店が、明るい時間帯とはまったく違った様相と、通りを超えただけで見せてくれるのだった。
 そんな夜の街で、飲み屋街から少し入ったところに、風俗の店が並んでいるが、その反対側から少し入った大きな川沿いのところに、いわゆる、
「ラブホテル街」
 が所せましと建っているのだった。
 最近のラブホテルは、店によって違うのかも知れないが、カップルで入るという形式だけではなくなっているようだ。
 この傾向は、今から十年くらいの間に増えてきたのかも知れないが、そのため、夜だけではなく、昼間も結構部屋が埋まっていたりするのだった。
 その影響というのは、いわゆる「デリバリーヘルス」、略して「デリヘル」と呼ばれる形式のもので、旧来の風俗店のように、店舗を持っているわけではなく、お客さんが指定した場所に女の子が出向いて、そこでサービスをするという業種である。
 店に行くわけではなく、自分の部屋まで来てくれるということで人気があるのだろうが、自分の部屋でなくとも、ラブホテルであったり、ビジネスホテルでも大丈夫なところがあるくらい、そういう店が増えてきていた。
 経営側からすれば、店を持つわけではないので、いくつも部屋がいるわけではない。事務所と、女の子が待機できる部屋が一つあればいいだけで、必ずしも女の子が店で待機していないといけないわけではない、今はケイタイ電話があるので、どこにでも連絡ができる。一人のサービスが終わってから、次の人のところまで近かったら、直行もできるというわけだ。
 要するに、部屋代や、サービスに必要な設備投資はいらないので、その分を宣伝費に使えるということだ。
 店を構えていても、それなりに宣伝は必要だが、客は店に来てくれるのだから、それほど大々的な宣伝は必要ではない。客は予約をせずに店に来ても、一番気に入っている女の子が埋まっていたとしても、空いている子に相手をしてもらえばいいという人には、お店は都合がいいのかも知れない。
 だが、デリヘルはそうはいかない。風俗情報誌などを見て、女の子の情報を得なければ、対面での受付ではないので、なかなか不便なところもある。
 ただ、デリヘルはデリヘルで、店舗型は店舗型で、自分の好みをしっかり持っていてその理由も説明できる人は多いだろう。
 店舗型が好きな人は、意外と待合室で待っているのが好きだという人が多いのかも知れない。番号札を貰って、スタッフの人が、
「○○番のお客様、お待たせしました」
 と言われたあの瞬間、ドキドキがマックスに達するのではないか。
 もちろん、女の子と正対した時が、緊張のマックスなのだろうが、待合室の緊張は、味わった人でなければなかなかないものだ。
 つまりはまわりに人がいて、自分の番号が呼ばれた時が、自分が主役にでもなったかのような気分になれる。しかも、まわりは自分と同じように緊張しているのだ。その空気が店舗型が好きな人にはたまらない興奮になるのであろう。
 では、デリヘルの場合はどうであろうか?
 あまりデリヘルを利用したことのない人には分からないだろうが、ホテルなどの場合であれば、入室した部屋からお店に電話を入れ、気に入った女の子が空いていればその子を指名するのだろうが、フリーもありである。
 確かに写真は風俗雑誌などに乗っているのだろうが、お店であれば、風俗雑誌に載っている女の子の顔にモザイクが掛かっていたとしても、お店で指名しる時は、モザイクなしというのが普通である。しかし。デリヘルの場合はその場で指名した時にはモザイクが掛かったままなので、顔を確認できない。そこが不利ではないだろうか。ただ。女の子がやってきてから、気に入らなければ、
「チェンジします」
 ということもできるらしい。
 ただ、何度チェンジできるかは不明だし、どこから有料になるかは店によっても違うだろう。
 だが、チェンジするということはそこでさらに時間が掛かるということである。ホテルの部屋をフリータイムで入ったのであれば、時間に余裕があるかも知れないが、何度も使命替えをしている時間が、果たしてあるだろうか?
 それを思うと、デリヘルの場合、女の子を選ぶという意味では不利な気がする。
 ただそれでもデリヘルの醍醐味は、お店の待合室と違って。一人で待っていられるということだ。対人が苦手な人には気が楽だし、好きなテレビ番組を見たり、コーヒーを飲んだりと、比較的好きなことをして過ごせるので、待っているという緊張感とは別のほっこりした気持ちになれるのはいいことなのかも知れない。
 ここに一人の男が初めて風俗を使うつもりで、初めてのラブホテルにやってきた。二十代の冴えないサラリーマンで、ボーナスが出れば、風俗を使ってみたいと思っていたようだ。
 彼女いない歴が自分の年齢と同じ、つまり、今まで彼女がいたことのない、しかも、風俗にも行ったことがないという、正真正銘の童貞だった。
 大学時代には、先輩や同僚などから、
「ソープ行こうぜ」
 と言われたこともあったが、
「あ、いや、僕はいいよ」
 と言って断っていた。
 最初はそれでも、
「まあ、そういうなよ。童貞捨てるには、風俗が一番いいんだって、俺が連れていってやるから安心だろう?」
 と言われたが。彼からすれば、自分がモテないのを分かってはいるが、それでも童貞を捨てる相手は。普通にお付き合いをした女性だと思っていたのだった。
 友達は皆先輩の話に乗って、ついていったが、彼は変な意地を張っていたのだ。
 この男、普段はしっかりしていて、リーダーシップもしっかり取れるので、まわりから信頼されているくらいだったが、こと男女の関係になると、とたんに臆病になったり、何も知らなかったりと、臆病風に吹かれるのだった。
作品名:謎を呼ぶエレベーター 作家名:森本晃次