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短編集123(過去作品)

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敗者復活戦



                敗者復活戦


 最近では珍しい視聴者参加クイズ番組、地元放送局ならではのローカル番組ではあるが、地元で人気があるのは、やはりクイズ番組が人気だった頃、青春時代を過ごしていた人たちが多いからであろうか。
 坂上もその一人だった。現在は三十歳代も後半に差し掛かっているが、十歳代くらいの頃、ゴールデンタイムには、毎日のように視聴者参加のクイズ番組をやっていたように思う。
「大学生になったら、参加しような」
 中学の頃くらいに友達と話していたものだ。しかし、実際に大学生になった頃にはほとんどの放送局で、クイズ番組をやらなくなっていた。
 その代わりに台頭してきたのがバラエティ番組であった。その途中に漫才を中心としたお笑いブームがあり、彼らの生き残りや、若手が中心になって作るバラエティ番組である。最初から視聴者に受け入れられたとは思わないが、依然として今でもゴールデンタイムの一角を担っていることに違いはない。
 バラエティ番組は視聴者参加というよりも、スタジオに観客席を作り、主役はステージのタレントであったり、芸人であったりする。彼らはいかにしてスタジオの観客を笑わせたり納得させるかに掛かっていて、冷静な目で見ていれば、芸人やタレントが楽しそうに笑っているだけにしか見えないが、それでも観客の笑い声が効果音になって、楽しそうな雰囲気が滲み出ているように感じる。
「うまく利用されているんだな」
 とも感じるが、これも時代の流れ、他に面白い番組もなく、見てしまう。
 その波は中央ばかりではなく、地方のローカル放送局にも押し寄せてくる。
 芸人は地方出身者が多く、中央で爆発的に売れたタレントも、これから売れることになるかも知れないタレントも、結構ローカル局の経験を積んでいる。
 最初はゴールデンタイムというわけには行かないかも知れないが、下積みの中から名前が売れていったりするもので、しかも、街中に出て、市民と触れ合うことでささやかながらの知名度を上げていくという地道な努力をしている。
 結構過激な突撃リポートのようなものもあったりして、
――そこまでしないと売れないのか――
 と見ていて、まるで他人事のように思えないと感じることもあった。
 普通にバラエティ番組として楽しめばいいのだろうが、どうしてもリアルな目で見てしまう。
――自分がやらなければいけなかったら、いくら生活のためとはいえ、本当にできるだろうか――
 と考えてしまうのだ。
 バラエティすら、まるでドキュメンタリーのように見てしまう。別に現実主義者ではないのだが、最初に、
――何が楽しいんだろう――
 という疑念を持って見てしまったことで、余計にいろいろなことを考えてしまうようになっていた。
 それでも最近は、バラエティ番組の趣旨も変わってきたのか。それほど過激なものは少なくなってきた。芸人が本当に自分の芸で勝負するような番組も増えてきて、自分たちの技量を競う形式なので、お笑いの中とは言え、真剣な表情だったり、彼らの本当の姿が見れるようで、嬉しく思えてきた。
 プロデューサーもそれなりにいろいろな趣向をこらして、視聴者を楽しませようとしているのが見えてくる。こぞって同じ時間にバラエティをぶつけてくる他局に対抗するためのものだが、そこに質の向上が見られるのであれば、それは視聴者にとってありがたいことである。
 出演者にとっても同じではないだろうか。売れれば引っ張りだこのタレント世界、同じ時間帯で違うテレビ局の番組にも出ているという現象も生まれる。ほとんどが事前に録画しておいたものだろうから、それも当然ではあるが、売れれば売れるほど、そのタレントの個性への賛否両論が叫ばれるようになるだろう。
 芸人の世界には結構過激なパフォーマンスで売れる人が多い。パフォーマンスはその人の個性なのだから、それはそれで結構なことなのだが、あまり過激でセンセーショナルすぎると、飽きるのも早いかも知れない。
「もう、あいつもピークは過ぎたな」
 と、感じると、事実ブラウン管への露出が次第に少なくなる。そのうちに新しい芸人が台頭してきて、過去の人のようになってくる。ことに芸人の世界では、その周期が短かったりしている。そんな時にさらなる地道な活動が活路を見出したりするが、それが地元局での活動であろう。中にはあっさりと転職してしまう人もいるが、ほとんどは地元から再出発する人が多いことだろう。
 地元の放送局で、一番大きなMKKという放送局がある。ここは、地元宣伝関係を主に行っている放送局で、郷土の話題、郷土の人物、郷土の国宝、さまざまなイベントなどを開催し、最近大きくなってきた。
 アナウンサーも地元の人間を集めているようで、地元から都会に出て行って、Uターン就職も斡旋しているだけあって、垢抜けたアナウンサーもいる。
 女子アナブームというのもあるが、ここの女子アナは、結構垢抜けている娘が揃っていることでも有名で、正式な東京のネット局というわけではないが、放送契約を結んでいることで、時々地方のアナウンサー特集の際には、MKKのアナウンサーも出てきたりする。
 スタッフ関係のほとんどは中央の放送局で勉強してきている人が多い。ただ、放送局の方針として、
「都会の猿真似ではなく、田舎オリジナルを前面に押し出す」
 というフレーズがあり、田舎であることを卑下するわけではなく、堂々と都会への挑戦を続けることに意義がある。
「猿真似ではなく、いいところを吸収すればいいんだ」
 まさしくその通りである。
 あるスタッフの提案で、
「ゴールデンにクイズ番組を取り入れてはどうでしょう? それも視聴者参加形式でやるんですよ」
「最近は、タレントが出演するクイズ番組が主流だが、大丈夫かね?」
 確かに都会に出来ないことをやるのがMKKの理念ではあるが、かといって採算を度返しするわけにはいかない。みすみすダメな企画を立てるようなバカな真似ができるわけもなく、アイデアが奇抜であればあるほど、細心の注意を払っての吟味が必要になる。会議を何度も開いて、プレゼンやデモも不可避である。
「この地域の人たちに、すでにMKKという知名度は浸透しておりますし、何らかの形で出演したいと思っている人は結構いると思うんですよ。ですから、成功の鍵はひとえに我々の企画に掛かっているのではないでしょうか」
 一人のスタッフの意見に、次第にまわりもやる気になってきた。
「確かに、最近は視聴者参加番組は少なくなっているよな。これを機会にやってみるのもいいかも知れないな」
 そんなこんなで、MKKからクイズ番組がスタートした。
 試行錯誤の状態で始まった番組は、一クールごとに少しずつ形式を変えていった。最初は当たり障りのない普通のクイズ番組だったが、次第に賞品も豪華になり、出演したいと思っている人が増えてきた。
 勝ち抜き戦形式で、十週連続勝ち抜けば、グランドチャンピョンになれるのだが、その途中にも昇格のためのステップアップを設けることで、そのつど、ステップアップに成功すれば、賞品がもらえる形式にしていた。
「これがうけたのかも知れませんね」
「そうだね。やはり、皆クイズは好きなようだ」
作品名:短編集123(過去作品) 作家名:森本晃次