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あの日、あの夏、あの子に向けて

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ツバサ『適当に着替えを済ませ、階段を降りて、アオイの姿を探す』

 ツバサ、いくつかの部屋をのぞきながら、アオイを探す。(気持ち声大きめ)

ツバサ「アオイ? おーい、どこだよー!! アオイー!!」
アオイ「ここー!!!」

 アオイ、少し遠くにいるイメージでツバサへと声かける。
 
 ツバサ声の聞こえてきた方向に歩いていく。

ツバサ「アオーー」
ツバサ母親「とーっても似合ってるわよ!! アオイちゃん」
アオイ「ほんと!! ありがと!! おばさん!!」

ツバサ『俺の目の前に映ったのは、楽しそうにはしゃいでいるアオイと母さんの二人の姿だった。俺は、青紫の浴衣に身を包んだアオイがすごく綺麗で、つい見惚(みと)れて言葉を失っていた』

アオイ「あっ!! ねぇ? ツバサ、似合ってる?」
ツバサ「んっ、あぁ、悪くねぇんじゃねの……」

アオイ『そう言って、ツバサがそっぽを向いた。でも、悪くないと言ってくれて、少しだけ嬉しかった』
ツバサ『もし、素直に似合ってると言えたらどれだけ良いだろう。いつもと違うアオイの姿を見るのがなんだか気恥ずかしくて、アオイから視線を逸らしたままサンダルを履いた』

ツバサ母親「アオイちゃん、その浴衣、気に入ったのならおばさんのお古だけどあげるわ」
アオイ「ほんと!? ありがと!! おばさん!!!」

ツバサ『アオイはその母さんの言葉を聞いて、嬉しそうに笑っていた』

ツバサ母親「……元気、でね、アオイちゃん」
アオイ「……うん! おばさんも」
ツバサ「……」

ツバサ『かあさんは昔から、アオイを自分の娘のように可愛がっていた。あの浴衣もきっとそんな母さんからのアオイへの最後の贈り物なのだろう』

アオイ「行こっ! ツバサ!!!」

 アオイ、ツバサの手を掴む。

アオイ『これ以上、おばさんの顔を見ていたら泣きそうだったから、ツバサの手をとってあたしは一目散に走り出していた』

ツバサ「おっ、おいっ!?」

ツバサ『その勢いに負け、俺もつられて走り出す』
アオイ『顔は見えなかったけど、きっとおばさんも泣きそうになっていた。あたしは、おばさんの顔が見えなくなるまでただ走り続けた』