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動機と目的

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 と思える。
 会社が生き残るためには、平気で社員をリストラする会社もあるだろう。法律の範囲内で、できるだけ社員を削減できるかが、会社の生き残りのすべてだと思っている会社も珍しくはなく、当然の考えである。
 だが、元々地力があって。人材育成にも、先見の明があるこの会社では、他の会社と同じことをする必要はさらさらないのだ。
 むしろ、違うことをやって、その成功例を示すことが、この会社の使命でもあった。それが、
「オオワダ総合コーポレーション」
 の企業理念であると言えるのではないだろうか。
 今では、全国数か所に、K市にあるような巨大な物流センターを持っている。開発センターだけは、K市にしかないが、それは当たり前のことであり、いつも本部と一番連絡を取っているのも、開発部であった。
 週に一度の本部での開発会議には、他の部署から上がってきたアイデアが話し合われる機会があり、それだけ、この会社が開発に力を入れているのか、分かるというものであった。
 一人面白い男がいた、彼は今はK市にある、
「オオワダ総合コーポレーション」
 の洋菓子会社の開発工場で、第一開発課の課長をしているのだが、元々はオオワダ総合コーポレーションも、洋菓子会社にも興味はなかった。
 K市にある大学の薬学部出身だったのだ。
 薬品に興味があり、開発ということにも大いに興味を持っていた。だが、別に、
「救える命を救いたい」
 という思いであったり、
「難病を少しでもなくしたい」
 などという正義感に燃えているわけではなかった。
 極端な話、開発というものであれば、何でもよかったのであって、子供の頃に病弱だったことから、どうしても病院や薬とは切っても切り離せない毎日だったことで、自然と薬が身近なものになっていた。
 だから、薬の開発をしたいと思っただけで、動機としては、何とも安直なものだったのだ。
 だから、大学生の頃は、
「どこかの製薬会社の研究室に入るか、あるいは、大学院に残って研究を続け、その後、教授への道というのもいいかも知れないな」
 と漠然としか将来を考えていなかったのだ。
 K市の代表的な企業として、
「オオワダ総合コーポレーション」
 が存在しているのは、十分に分かっていたが、自分が目指している開発への道とはまったく違っているものだということは分かっていた。
 いよいよ就活の時期だという頃になってきたのだが、なぜかその気が起きなかった。
 本当であれば、就活に集中しなければいけないのは分かっているのに、興味のある会社がいまいち決まらない。
 大学のゼミでも、学部の成績でも、お世辞抜きにトップクラスだというのは、誰もが認めていた。
 本来なら、一流大学の、しかも大学でも看板学部である薬学部。さらにそこでの優秀な成績ともなれば、引く手あまたのはずなのに、その気にならなかった。
 大学院への道も約束されているようなものであったが、この期に及んで、
「エスカレーターなんて面白くない」
 というこれ以上ないというくらいの贅沢を口にしていたくらいだ。
 そうなってくると、まわりも相手にしてくれなくなる。どれほど上から目線なのかと言われても仕方がないのだろうが、実際に上から目線であったことは否定しないが、いわゆる、
「ものぐさ」
 と言われるほどの、無気力になっていた。
 そんな時、オオワダ総合コーポレーションの人事部のスカウトがやってきた。まさか、就活で、向こうから来るなど思ってもみなかったので、少しビックリしたが、
「君のその突出した感覚が、今の苦悩を作っているんだ。その苦悩は悪いことではない。それが君という人間を向上させることになるんだからね。だから、君のような人間は、一般的な場所にいるよりも、エリート集団の中に入っていくことの方が、自分を活性化できていいと思うんだ。普通の人は、エリート集団に入ると、普通なら億してしまい、最初からその覚悟を持っていないと、挫折するものなんだよ。だって、今までは自分が優秀だと思っていたのに、今度は皆が自分と同等か上のレベルだろう? プライドを大いに傷つけられるというものなんだ。だから、最初からよほどの覚悟と状況判断を持って臨むか、生まれつき、人にもまれることで自分の力を発揮することに喜びを感じる人間でもなければ、エリート集団の中では生きていけないのさ」
 と言われた。
「じゃあ、私はそのエリート集団の中に入る素質があるということをいいに来てくれたのでしょうか?」
「ええ、そういうことです。少なくとも私はそう思っているから、うちにほしいと思っています。あなたのように、自分の気持ちと才能発揮のリズムがハッキリしていて、同じバイオの上に載っている人は、そうはいません。私たちはそういう人材を探し求めているといっても過言ではないんです。だから、あなたに目をつけて、スカウトをしにきたというわけですよ」
 実に光栄な話であるが、少なくとも人生を決める決断なのだから、簡単には決められない。
 だが、簡単に決められないことの方が、余計に型に嵌るというもので、この男の話に大いに同調して聴いていた。
 彼は名前を清武研三という。
 大学院に行って、薬学の研究をそのまま続けるか、それとも、ここで民間に下って、この男の口車に乗ってしまうか、普通に考えれば医学の道を大学院で目指すかであったが、この清武研三という男、どこまでも天邪鬼にできていた。
「オオワダ総合コーポレーションに行くことにします」
 と大学院にはそういうと、
「どういうことなんだ?」
 と言われた。
「せっかく誘われたのでね」
 というと、
「お前はプロ野球のドラフトで、一位指名を複数球団から受けて、くじで選ばれた球団と交渉できる立場にありながら、それが意中の球団であろうがどうしようが、今までやったことのないプロサッカーチームに入団しようかというのと同じだぞ、それは無謀というか、自殺行為というか、たぶん、十人が十人、誰も尾苗の気持ちを理解することはできないというだろうな」
 と言われた。
「その通りだと思います。でも、それは皆さんから見て無謀とか自殺行為だと言われるだけで、僕にはそんな意識はまったくないんですよ。むしろ給料をもらいながら、学生のように一から教えてくれるというのだから、ありがたいことなんじゃないでしょうか?」
 というと、大学院の人はあきれ果てて。
「じゃあ、今までの人生で培ってきたものを棒に振るというのかい? 俺にはとてもそんなことはできないな」
 と、その言葉を聞いた時、清武は自分の決断が間違っていないことを確信した。
「今の言葉、僕の方こそ信じられないんですが。今までの人生で培ってきたものを棒に振るってどういうことですか? 私にはそれが理解できない」
 というと、相手はさも意外そうな表情になり、その後、苛立ちを覚えるかのように、声を荒げて言った。
「何言ってるんだよ。せっかく小さい頃から勉強して、大学でやっと目指していた薬学部に入って、大学生として精一杯の研究をしてきて、そして、これからやっと、仕事にできるというんじゃないか。ここまでの薬学で身を立てたいという思いを棒に振るかということを言っているんだ」
作品名:動機と目的 作家名:森本晃次