小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ペインギフト

INDEX|4ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 大きく貼られた胸のゼッケンには『No.113 デリケート』の文字。勇気と期待感に周囲はスタンディングオベーション。それはお決まりのセリフを伝える合図。

『あなたの、痛み、いくらですか?』

「えと……ごせ、いえ! 8000円で!」

『皆さま、113番さま、8000円から始まりました。8000円です。8000円』

 エントリー者と司会をUの字に囲むギャラリー。集った人の凹凸の影全てに尋ねている。その影の中から光に顔を晒して、参加を希望する声が響く。

「5000円!」

 6番のプレートを持ち上げる素速さと声の大きさに再び湧くスタンディングオベーション。直前よりそれは大きく、『きっとこれで助かった』や『逆に増やすべきだろ』の野次も混じりながら、No.113の顔をうかがう。

『珍しく、提示金額より低い金額となりましたが、いかがでしょうか』

 マイクとは違う腕を広げてNo.113に答えを求める上村。野次の勢いに人酔いをもよおしそうなNo.113。丸めた手をひたいにあてながら、答えを零す。

「あ、あ、お! お願いします! 5000円! 痛みと一緒に差し上げます!」

『落札されました! あなたの痛み、6番さまが5000円で請け負いましょう!』

 間髪入れずに落札のハンマーが響き渡る。そして拍手は30秒ほどで落ち着いた。上村の誘導でステージに登る落札者No.6。No.113を頭からつま先までを何度も細い眼差しで撫でながら、言葉を漏らす。

「あぁ、知りたかったんだよなぁ~、生理中の痛みってやつ。杏奈あんなちゃんの痛みならお金払ってでも知りたかったから待ち遠しいよ!」

 眼差しに口を抑えてしかめるNo.113杏奈。目を合わせずに会釈するのが精一杯なのが上村の目に触れる。No.6にマイクを合わせずに形式上の流れを話し出す。

『では、さっそく我が社のアクセスポイント内でワイヤレス契約を行います』

 上村はスーツの左腕の袖をまくり上げると、電子的に光沢を魅せる端末が手首を巻いている。ピアノを奏でるような指使いで、形式上の通りとなる操作を進める。

「指定されたパスワードと個人認証は完了致しました。ペインギフトは約1時間後に開始されます。万が一に備えてギフトを請け負ったあなた様は、医療機関、またはご自宅で療養の準備をされる事をお薦め致します。契約は成立致しましたので、当社は責任を以後免除となります」

 ギフトを請け負った男No.6は、杏奈に尋ねる。

「ねえ、いくつ頭にトランジスタ仕込んでるんだい?」

「え、あ……な、7つです」

「7つ! 悪くないね! じゃあ、小脳、視床、前頭葉、体性感覚野、帯状回、は全部カバーしてるね! ちなみに僕は16だ! 体感度たかいよ!」

 興奮しているNo.6に対して杏奈は無言になる。まだ質問が足りなさそうなNo.6は更に口を開こうとするが、上村は言葉を割り込んだ。

「113番さまへのご質問は、アプリケーションを通してお願い致します。そして、113番さまは、それに対して答える義務はございません。質問に返信をされたい場合のみにお答え下さいませ」

「で、では、私はこれで!」

 杏奈は素早い会釈と同時に回首。再び目を合わせることなく、ゼッケンを着けたまま、街に溶け込んだ。

「これで、君と僕は秘密を共有できるんだね。もっと君を深く知ることが出来るよ。今日は君の後ろを付いていく事が出来なくてごめんねぇ。でも、何かあれば、僕の身体で感じるからねぇ。やっとひとつになれたねぇ」

 満悦な笑みで会場を後にするNo.6。腕に巻いた端末を操作する。その後ろ姿は曲のリズムに乗っていることが分かり易く、すれ違う面々は、肩が擦れ合わないように道を開かせる。



ーOne hour laterー 1時間後



【こんにちわ! No.113の杏奈です。先ほどは緊張で失礼しました! 良ければですが、明日が私、もっと辛くて、良かったら24時間追加更新されませんか?】

【きたぁ~! きたきたきたー! 杏奈ちゃん! 痛みを共有できてるよぉ~。勿論! 更新ボタン! 君の事がもっと詳しくなれたよぉ。君がどのイベント会場の常連なのか、やっと探しあてたんだからね! 今日は2カ所だったから、この会場のエントリーに賭けたんだ! これからは君の痛みは僕の痛みだよぉ~。】「あーもう! 外の工事のうるさい音なけりゃあ、もっと愉しめたのになあ」

 No.6は杏奈の痛みを堪能する。そして合計48時間のペインギフトを請け負ったNo.6。時間の経過で微妙に変化する痛みに対応するように体勢を変え、ストレッチを加え、寝ころんだり、起きたりを繰り返す。



ーThree hours laterー 3時間後



「あぁ、君はこんな 鋭く鋭利 な 鈍い鈍器 で叩かれて お腹の虫歯 に悩まされてたんだねぇ……だから今日は僕を見る目も素っ気なかったんだねぇ……しょうがないよねえー! しょうがないよねえー! 僕の事が気になってても! こんなに 感情が凸凹 なんだから! しょうがないよねえー! あは! あはあ! あああああああああああああああーー!!」

 ベッドでもがくNo.6。その見開いた角膜の回りは稲妻な充血。存在しない臓器周辺を掴み、腰を浮かし、つま先を尖らせながら痙攣した海老反りを繰り返す。その声は、窓の外に響くと共に、真向かいのアスファルトを砕くコンクリートハンマーの音でかき消される。その頃、イベント会場では、スタンディングオベーションが繰り返される。

『No.113番! いったいどれだけ痛みに強い子なのよ!』

 連続で落札する杏奈の勢いにテンションをあげるオークショニアの梅林。ここは2カ所同時開催中のイベントの女性専用会場。胸のゼッケンにはNo.と、そのほとんどがデリケートの文字。2カ所のイベントに同時参加している杏奈。No.113のプレートを振り上げ落札を続ける。その表情は、くすんだ感情を一片も感じさせない。

『ではワイヤレス契約を行います。契約終了後は、24時間、サービスエリア内、サービスエリア外の提携先は自動ローミング(自動電波接続)致します。ペインギフトを請け負った方が、24時間以上ローミングされる場合は、アプリケーションより更新手続きをお願い致します。あら、No.113番さまは、今回でペインギフトのメモリー領域は限界になりそうね。しっかしいったい、いくつのペインギフトを仕込んでいるのでしょうかねえ!』

 声を弾ませる梅林の耳元に口を近づける杏奈。その数に梅林も口角と角膜を広げる。

「38人のデリケートな痛み。私が24時間請け負ったわ」



イベント予告CM



『あなたの痛み、いくらですか?』

『ズッチャン♪ ズッチャン♪ ズッチャン♪ ズッチャン♪』

『今日の憂鬱♪ ペインギフト♪』

『明日もあなたに♪ ペインギフト♪』

『チクッとさせて♪ ペインギフト♪』

『新規ペインギフト♪ 受付中♪』





 【変身ロボット】



テレビCM



『あなたの痛み、誰の痛みですか?』

『チャン♪ チャン♪ チャン♪ チャン♪』
作品名:ペインギフト 作家名:ェゼ