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ペインギフト

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 テロリストは、言葉が上手い。倫理観や罪悪感に訴えてるのか? だからと言ってテロ行為には違わない。許してはいけない。「なら、あんたらが堂々と政治に参入して世直しすればいいだろ」

「民主主義を利用すれば、上手い宣伝で、民衆は都合のいい方を優先するだろうけどな、。俺たちが、どれだけ旗を揚げて政治に参入したとしても、永すぎた歴史のある過去の支持者を新参者には隙も与えないだろう」

 理屈はわかる。それをひっくり返すには100年じゃ足りないだろう。痛みが自然ではない事は事実。だが、それで救われる老若男女は沢山いるだろう。駄目なのか? それが。沢山の善人がなんとか痛みを取ろうと考えた画期的な方法じゃないのか? 自分の痛みは人にもわかって欲しいだろ? わかってもらえなくて辛いこともあっただろう? きっと間違っていないはずだ! 優しい世の中になるはずだ! きっと!! 「じゃあ、理想的な人間ってどんな生き方た!」

「自分で考えろ。結果的に俺たちはお前を誘拐した。拷問をした。そしてお前は痛みがない事を強みにしているだけだ。それはお前の強さじゃない。まあ、お喋りはここまでだ。こちらが安全とわかった時点でお前を解放する。しばらく我慢してくれ」

 解放されるのか俺は。俺は生かされているのか。どうして生かす。そもそも殺さないテロ組織なのか。それで成り立つのか? なぜ捕まらない。俺は、誘拐された。拷問された。なぜ俺はこんなに余裕を保っていられる? 痛くないからか。痛みが無いという事は、純粋な人間じゃないからか。「待ってくれ。まだいるか?」

「ああ」

 俺はどうしようとしている。「お前たちは、テロリストという自覚はあるのか?」

「お前たちが、そう言っているだけだ。まあ、法律的には犯罪者だろう」

 そうだよ。こいつらは犯罪者なんだよ。「全て犯罪行為で成り立っているのか?」

「ほとんどの者は、普通に働いている。そこで個人情報を貰ってはいるがな」

 立派な犯罪なんだよ。個人情報を流すのは。「なぜ、そんなに個人情報が必要なんだ」

「あとで、人間に戻す必要があるからな。ペインアウトから」

 何のためだ? 何を怖がっている? 「人間に戻すだって? ペインアウトを強制的に解除するつもりか? そんなのをやって何になる!!」

「痛みを感じない若者がこれ以上増えたらどうなる? 核保有国、全国民がトランジスタを仕込んだらどうする? 痛みを感じない兵隊が造られたら、何が起こる? 兵士の痛みをだれが請け負う?」

 …………痛みを知らない戦争。……受刑者か家族が銃の痛みを請け負う生活。俺は真面目に想像してみた。前線を走り抜ける兵士たち。弾が当たらないように、油断しないように慎重に慎重を重ねて敵陣に進む。

 人を殺める恐怖に、自分が死ぬ恐怖。皆、自分が最初の犠牲者とは思わないだろう。けれど、必ず、最初はやってくる。

 自分の隣で昨日まで笑っていた友の喉に弾が貫通する。その瞬間、友は倒れ込むかと思ってしまう。泣く準備も出来ている。けれどその友は、喉に手をやり、血は確認するが、痛くない。その瞬間、敵陣へ走り出す友。その横顔は、とても笑っていた。

 この状況で、まず誰もが表現することのない表情。それは近くで被弾した味方にも伝染する。笑顔で走り出す数十人。敵側から見れば、どれだけおぞましい光景だろう。撃たれても、撃たれても、衝撃で躓いても、笑顔を絶やさない兵士が向かってくる。そして、少しずつだが、動けなくなる者も現れる。痛くないのに、動けない。痛くないのに、足がない。戦場で笑顔を出した者は、敵陣を抑えたあと、帰還できる者はいないだろう。

 そして、国で待つ家族は、全てを痛みで味わい、町中が痛みで乱心し、最後には、何も感じなくなった事に、還らぬ家族を理解する。人として死んだわけではない事を身を持って理解する。痛みをわかち合い、心と体も蝕む三重苦。「俺に……何か出来ることは……あるか?」何を言っている。俺は……。俺は……そうなりたいのか?

「ペインアウトは、何もしなくても広がる。誰も知らないうちに、予防接種などでな。だが、それでは管理出来ない。なら、お前が自分で会員を増やすといい。確実なペインアウト会員が管理できる。お前は最先端のペインアウトに詳しいだろう」

 きっと、俺は、こいつらより、考えてなかっただけなんだ。わかったよ。「ああ、任せてくれ。ちょうど民間でこれから公に発表する時期だ。今なら自国のペインアウト会社で幹部扱いで入れるだろう」

「わかった。では、この者と潜入するといいだろう」

 この者? 監視役か? なんだかんだ、信用されていないか。あ、目隠しが外された。う、窓からの西日が眩しい。イテッ! え? 頬をつねられた感覚。俺の目の前には、自分の頬をつねっている者が立っていた。

「助けにきたよ! やっと、本当の仲間になれたね。京平! この痛みは、私からのペインギフトよ!」

 その……ネーミング、いいかもな。





   民間事業部推奨動画



『あなたの痛み、前ならえ』

『全体!! 構え!! はい!! 始め!! はい!!』

『軍事開発。ペインアウト』

『輸血にワクチン。ペインアウト』

『兵士の未来。ペインアウト』

『民間事業部。募集中』





【デリケートオークション】



イベント予告CM



『あなたの痛み、いくらですか?』

『ズッチャン♪ ズッチャン♪ ズッチャン♪ ズッチャン♪』

『今日の憂鬱♪ ペインギフト♪』

『明日もあなたに♪ ペインギフト♪』

『チクッとさせて♪ ペインギフト♪』

『新規ペインギフト♪ 受付中♪』



   垂れ幕



あなたにはわからない

君にはわからない

共有したい

味わってほしい

だから

ぼくの

わたしの

タブーなジレンマを

あなたにプレゼント





 風にたゆたう垂れ幕が、イベントセールの気軽感を促進させる。くすんだ幕の使い回しは、文字を必要としないほどに、開催中の認識には困らない。ビルとビルに挟まれた歩行者天国の日曜イベント。ビルの垂れ幕に呼ばれて近づいた老若男女の耳に貫くハウリングがスピーカーから飛び終わった刹那、進行中のイベントの様子に、笑みがこぼれる。

『司会進行役オークショニアの上村かみむらです。私は値段を決めません。ギフトに見合った報酬を、痛みと一緒にお支払い頂くだけです。あなたを助ける方々に』

 エントリーNo.は三桁以上。疲れからなのか、日差しの強さなのか、言葉に張りが弱い司会のテンション。けれどもそれに訝しげるギャラリーは見当たらない。ギャラリーの注目は、次のエントリー者に対して向けられていた。そして比較的にこの会場では幼さを感じるエントリー者は、快活に挨拶を始める。

「ペインギフトオークションの常連です! いつも肘やつま先を角でぶつけたような理由で利用させて頂いてます! 今日はもう少し恥ずかしい理由で来ました!」

『やあ、こんにちは。お嬢さん。いつもありがとう。勇気ある彼女に皆さま拍手で迎えて下さい』
作品名:ペインギフト 作家名:ェゼ