小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ペインギフト

INDEX|2ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 道を挟むようにオフロード車が一台ずつ停車してある。左右から2人ずつ詰め寄ってくる。全ての者がアサルトライフルを握る様子にどれだけ無関心なフリができるだろう。こちらは即時停車が自然な圧力と、すぐさま運転手に話し掛けてくる者。通訳には伝えていたように村での取材を伝えているはずだ。疑いしか感じない目配り。何か違和感がないか言葉と表情と持ち物を全て調べる者たち。カメラも通信機も、どんな取材民間人が所有していてもおかしくないもの。調べる方も探し甲斐がないほどの装備。



 2分程度経過しただろうか、心地は10分くらいに感じる。幸い冷や汗をかいていても、これだけの暑さなら違和感にも感じない。それの違和感のなさから、質問をしてきた男は首を進行方向にひねり、行けという合図が伝わった。ひとまずの安堵に4人とも初めて穏やかな表情。まるで男4人で楽しいドライブをしているようにも見えるだろう一時の開放感。その無事を伝えるかのように目尻の外側にある太陽たいようのツボを押し、危機を脱した事を恵理香に伝える。またすぐに了解の意味にとれる四白のツボがジンジンしてきた。

 潜伏先と思われる集落が見えてきた。ここを通り過ぎると仮の目的地に向かってしまう。ここで俺1人下車して車とはさよならする。通訳やガイド運転手はひとまず村まで向かって本部と通信機でやり取りをするだろう。俺の通信機は恵理香に伝わるペインアウトで十分だ。

 ちょうどいい岩場で座り込み、望遠レンズを装着したカメラで様子を確認する。集落は、せいぜい20世帯の規模。世帯3人なら60人が最大だろう。その内、どれくらいの人間がグリーバンスのものか。ただ、俺の役目はグリーバンスを確認する事じゃない。この集落全体の人の出入り、予想最大人数、見張りの有無の確認だ。深入りはしないように言われた事だけを遂行しよう。

 出入りはほとんど見当たらない。たまに出てくるのは、牛を連れては、道なき道に見える地元民の道をゆったりと通る酪農家程度。見張りも特にいるようには見えない。それこそ庭で小さな自給自足をしている人しか見当たらない。普通に旅人が声を掛けて写真を撮っていてもきっと許してくれるのではないかと思わせてくれる安堵感すら感じる。少し悩んでしまう。このままあと10時間、この岩陰に隠れてレンズで覗くか、それともジャーナリストとして集落にとけ込むか。暗くなるまでに考えてみようと思う。あ、車が集落に、あの検問を行った2台のうち1台が戻ってきた。もう1台は……は! 影! 後ろ! ガ!!

「バカが、この先の村自体が俺たちの潜伏先だ。この集落は集会所として使うがな」

 このバカ。ライフルで殴ったりして、簡単に気絶するかと思っている勘違い野郎。しかも俺は今ペインアウト中だ。恵理香、相当痛かっただろう。ペインアウトは解除してくれてもかまわない。あと、あのガイドたち。危ないな。ガイドが危ない時は、左手の中指、付け根から基節骨、中節骨、末節骨(指先)の肉を右手の爪で押す。3ヶ所で3人の意味だ。伝わりやすくするため、爪はいつも尖らせている。伝わったかな。なるべく力を抜いて、気絶しているフリをして、ん、後ろ手に結束バンド。目隠しか。おそらく、助けが来るまで俺は逃げられないだろう。車に乗せられた。潜伏先か? 集会所か? ガイドたちに関しての了解の合図がないな。殴られた痛みでそれどころじゃないのか? もう一度左手の中指で合図しておこう。ん? 停車? いや、デコボコな道を進んで……これは、集落の集会所だな。

 合図は左手の親指。基節骨への爪の痛み。あと、本当の潜伏先は、この集落ではなく、この先の村。村の合図も作っておいて良かった。親指の基節骨と小指の基節骨を交互に何度か痛みを。これで伝わったか? あ、四白への鈍痛。伝わったようだな。あとは、俺にできることは何もない。運が良ければ、監禁中に救出。運が悪ければ……。どこかの小屋? 引きずる足元の感触は、石でも樹脂でもなく木質。集落は主に石で壁を作っていた。木で造っていた建物は、一番大きな中心の建物1ヶ所の記憶。これは、指パーツでは作っていない。ならモールス信号。右手の親指の爪で右手の人差し指の末節骨(指紋部分)で情報を。伝わった。四白の合図。これで俺に出来る事は、何もない。

 こいつらは、執拗に質問を繰り返す。だが、正直何を言っているのかはほとんどわからない。ただ、その質問にひとつひとつ答えられない度に、奥から怪しく光る、細く鋭く、器用なもの、堅く力強く、不器用なものが近づいてくる予感がする。

 普通はジャーナリストが簡単に何かされる事はない。普通は、大義を世間に公表し、交渉の人質とされるものだろう。普通なら。グリーバンスに捕まった者は、大抵は解放された事がない。それがテロリストの目的が金で人を集めたものでなく、行動を譲歩する気もないという固い大義を感じさせる。これによる俺の身の振り方は二通り。このまま話の通らないまま拷問を受けて大義の下に死ぬ。または、涙と鼻水を流し、命乞いをして、一門に下る。どちらもごめんこうむりたい。「うっ!」

 どうやら始まったらしい。驚いたが、痛みはペインアウトされているらしい。恵理香、ペインアウトを解除するんだ。今、俺は尖った爪をはがされている。耐えなくていい。俺に痛みを戻すんだ。すると、俺の額に強いデコピンの鈍痛。回数にして3回。それは『こちらは大丈夫』の意味。司法取引を済ませている受刑者が請け負ったか? それなら減刑のために張り切ってほしいところだ。

 2枚目の爪がはがされる。受刑者のやつは牢獄か拘置所で悶えてることだろう。俺も弄られているせいで吐き気が催す気分だ。痛みがないだけで、実際は俺の爪は無惨な状態になっていることだろう。見えない事が幸いといったところか。

「もう良い。時間の無駄だ」

 その男が扉から入室した瞬間、俺への処理は停止したようだ。

「ペインアウトを起動している奴に拷問するのは、こちらの精神の方が心を削られる気分だ。それに、ここに来ることになった理由の情報を聴こうが聴かまいが、こちらが与える言葉は同じだ」

 どんな事をされるだろう。俺は、結局は消されるのか? このグリーバンスの組織のわからない所は、行方不明者は多数あるが、グリーバンスによって明らかに殺害されたという話は聞いた事がない。主にテロ行為とすれば、情報スパイ、ハッキング、誘拐、主に個人情報を大量に入手しているような組織。残虐性は拷問以外には表面化してない。「何が目的だ……」

「言葉を与えよう。こっち側にこい」

 こっち側? つまり仲間になれと言うことか。言葉がわかる分、聴いていないフリが難しい。無理だろう。理由がない。「こ、ことわ……」

「断る前に、考えてみろ。お前の今の痛みは、誰が請け負っている」

 この痛み。都合のいいことに、司法取引によって誰かが……。

「お前の知らない誰かが、お前の事を知らずに、合法的な拷問を受刑者や仲間に行っている。都合のいい話だが、それが人間のする事か?」
作品名:ペインギフト 作家名:ェゼ