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悪魔のオンナ

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「ええ、彼の主治医に遭ってきました。どうやらそこにウソはないようだったんですが、鬱病の原因は、何かのショックによるものだったということです。外部から受けた傷ではなく、精神的に病んでいたということだったので、突発性というよりも、恒常性と言った方がいいということでした。徐々に症状が重たくなっていって、次第に何もかもがおかしくなってきたようでした。彼が殺されたというのも、鬱病が原因で、フラフラしていたところを、何か見てはいけないものを見たことで殺されたのかも知れませんね。ひょっとすると、浮気相手が、この裏風俗に関係があったとか、そうなると、彼女の浮気相手というのは、この女によって、何かしら利用されているのかも知れないですね」
 と言った。
「他の浮気相手には、何か怪しいところはなかったのか?」
 「はい、斉藤祐也に関しては、こちらでも少し調べがついているかと思いますが、どうも組織の片棒を担いでいるようですね。ただのチンピラにしかすぎませんが、あの女の手下になって、そのうちに、優しい言葉を掛ける役をやらされそうな雰囲気ですね」
「じゃ、小田切おさむの方は?」
「やつにはしょせん、何もできないと思います。ひょっとすると、彼女が何かあった時、最後の捨て駒のつもりでいるのかも知れないですね。考えてみれば、小田切という男は今までのあの女の関係の中で一番長いんです。そして、そのせいもあってか、一番危なくないところにいるのが、やつだったんです」
 という報告があった。
「じゃあ、あの女は今までにも恋人をとっかえひっかえだったわけだ。それも何かに利用するために」
「そういうことですね、本当に悪魔のような女だと言っても過言ではないでしょう。だが、あの女は決して表に出ないようになっていたはずなんですが、今回の三橋の殺害で、鉄壁だった牙城が崩れ始めてるのではないかと思うんです。そういう意味では、やつらの自業自得が招いた風穴だと言えるんじゃないでしょうか?」
「こんな連中だったら、裏風俗だけで満足するようなことはないんだろうな。きっと裏風俗のさらに裏には何か大きな陰謀が渦巻いていて、この裏風俗が摘発された時、その裏に潜む何重にも張り巡らされた牙城が顔を出すかも知れない。だが、我々はそれを分かっていても一つ一つ潰していかなければいけない。何しろ日本は法治国家なのだから、法に抵触するようなことをしてはいけない。まずは、やつらの牙城を一つずつ潰していこうではないか」
 と門倉本部長は劇を飛ばした。

 それから、次第にやつらの牙城が崩れていく。
 一番の問題は、小田切おさむの死体が、暴走して海に突っ込んだ車の中から発見された。かなりのアルコールを摂取していて、借金があることを苦にしての自殺とされた。
 なるほど、小田切があのオンナから離れられないのは、肉体に溺れていたというよりも借金を背負わせていたからだった。しかも、小田切はシャブ中毒にされていて、そのために借金を重ねることになったという。
 本当に松岡結子という女は悪魔の女だった。
 だが、悪魔だったのは、組織によって守られていたからだった。
 いよいよ彼女のまわりが危うくなってくると、今度は、余計なものの抹殺に走った。
 しかし、その抹殺は結局は自分が抹殺されるための演出でしかなかったのだ。次第に追い詰められていく結子、とうとう、自分の捨て駒であった小田切を抹殺する手段に出たのだが、小田切を抹殺するということは、彼女にとって捨て駒を失うだけではなく、それまで表に出ていなかったあくどいやり口を公表することになる。
 遅かれ早かれ、あの女は終わりだったのだ。
 自業自得といえばそれまでなのだが、彼女自体が捨て駒で、追い詰められたことで、果たしてどうなるか?
 彼女への逮捕状はすでに申請中であったが、寸でで彼女は失踪する。そんな状態に、
「結局は、またしてもいたちごっこを繰り返すだけか」
 と言って、落胆する捜査本部であったが、事件としては解決したのだ。
 これを機会に悪いことばかりではなかった。
 長谷川巡査とお美紀ちゃんの結婚の話がもたらされたのは、ちょうど、松岡結子の逮捕状が発行され、それと同時に失踪してしまったことで、全国指名手配されたことであった。
「本当に生きた状態で見つかるんだろうか?」
 そんな恐ろしい発言を払いのけるかのように、長谷川巡査とお美紀ちゃんの満面の笑顔が捜査本部に一筋の光明をもたらしていたのだった……。

                  (  完  )



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作品名:悪魔のオンナ 作家名:森本晃次