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悪魔のオンナ

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。

            居酒屋「露風」

 K市を通っている私鉄は二本あるが、そのうちの一本は急行電車が停まるほどの中心都市の様相を呈しているが、もう一つの私鉄の方は、K市の端の方を掠めるように通っているので、人によって、
「H電車はK市の駅がない」
 と思われているかも知れないが。実はちょうど掠めているあたりに駅があるため、
「K市には駅はない」
 と思われているようだ。
 駅の名前も、K市に関わるような名前ではなく、駅の両端は隣の市でもあるので、まさかこの駅をK市だと思っている人は珍しいカモ知れない。
 さらに、実はこの駅と同じ地名が、少し離れたところにあり、そこがK市ではなかったりするのでややこしい。そのことを知っている人は年配の人には少しはいるかも知れないが、若い人では珍しいであろう。知っているとしても地元の人というよりも、鉄道ファンの人に知られているという程度で、若い人は地元に興味を示さなかったこともあって、知らない人が多いのだろう。
 昔の子供であれば、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に住んでいたりすれば、近所の裏話などを教えてくれたりするので、意外と知っていることも多いのだろうが、今は誰もそんなことは知らないだろう、
 そのせいもあってか、H電車を利用する人は、
「H電車でしか通えない場所に会社や学校があるから」
 という理由だけで使用している人がほとんどであった。
 したがって、H電車の駅は、もう一つの私鉄の駅に比べればかなり過疎化していると言ってもいい。
 いや、過疎化ではなく、最初から過疎だったわけであり、過疎のおかげで駅を利用する人が少ないので、気楽に通勤、通学ができると思っている人が多かった。
 おかげで付近には、ほとんど店はなかった。コンビニが一軒あるくらいで、後は昔から営業している病院が一軒あるくらいで、呑み屋に至っては一軒もなかったのである。
 区画整理もされていない影響で、狭い道が込み入っていて、昔の家が見臭して建っているといるというイメージが強い。
 家が昔からの土地とともに建っていることで、庭も建物もそれなりに広さがあった。中には最新の家に建て替えた家もあるようだが、庭に新しい家を建設しながら、新しい家が建てばすぐに引っ越し、今まで住んでいた家を解体するというやり方ができるくらい、土地は広いようだった。
 そんな一体なので、広い道もほとんどない。一方通行の道が多いのだが、実際にワゴンくらいなら、運転がうまくないと一歩間違えると、溝に嵌ってしまうほどに狭い道だった。
「いくら主要道路が混んでいても、こっちの道を通ろうとは思わないよな」
 という人が多いほど、道の狭さは他の比ではなかった。
 しかも入り組んでいて迷路のようになっているので、切り返しも難しい。たぶん、このあたりにずっと住んでいる人でないと通り抜けるのは難しいくらいではないだろうか。
 そういう意味で、この一帯自体が、すでにK市ではないと思っている人が多いカモ知れない。K市の隣は、完全に田舎になり、市になりきれない町が存在していた。市町村合併の話が出た時は、K市側の方が難色を示したので、その話はすぐにお釈迦になってしまったほどである。
 駅を降りてから駅前の道を五分ほど歩いたところにガードレールがあった。
 H電車の中でもここまで小さな高架はないのではないかと思われるほどの小ささで、それでも、車が離合できるくらいのスペースはあった。トラックでも四tくらいまでは大丈夫であるが、それ以上は高さ制限に引っかかるのであった。
 このあたりは通学路としてはそれなりに利用客はいるが、通勤となると、皆もう一つの鉄道の方に行ってしまうので、通学時間が終わってしまうと、夕方の六時過ぎでも、まるで九時過ぎではないかと思えるほどに、人通りがまったく途絶えてしまうくらいだった。
「こんな通りがまだあるなんて」
 と初めて通る人はそう思うだろう。
 逆に新しくする理由もないので、同じように昔からの古いままの場所というのも探せば見つかるのではないだろうか。
 K市というのは、事件はそれなりに起こる場所で、K市署はそれなりに忙しかった。捜査一課には最近警部補に昇進した椎津警部補と、その部下でコンビとして数々の事件を解決に導いた辰巳刑事がいた。
 いつも冷静沈着な清水警部補と、勧善懲悪タイプの熱血刑事と言える辰巳刑事のコンビは、この間まで殺人事件の捜査に追われていて、やっと解決できたことで、今は半分放心状態のようになっていた。
 特に事件に必要以上に入り込む辰巳刑事は、事件が解決すると、たまに鬱状態に陥り、同僚も話しかけられないほどになっていることもあった。
 そんな時、
「辰巳君、たまには飲みに行こうか?」
 と、清水警部補が誘うことがあった。
 辰巳刑事は事件に集中している時以外は結構気分屋であるので、誘うのにもタイミングがある。さすがに長年のコンビである清水警部補はよくわかっているようで、誘う時はそんなうまいタイミングであった。
――今日でよかった――
 と辰巳刑事は最初はそう思っていたのだが、しばらくしてから、それが清水警部補が自分のことを理解しているからだということを分かった時、自分が本当に清水警部補と最高のコンビであると感じたのだった。
 この日は、清水警部補が、
「普段はいかない店に連れて行ってあげよう」
 と言って、六時前には署を出て、歩いて連れて行ってくれるようだった。
 K署はK市の外れの方にあり、少し行けば、H電車の駅が近くにあるくらいのところに位置していた。だから、H電車を利用している人も結構いるのだが、二人はほとんど利用したことはなかった。
 そのせいもあって辰巳刑事は、ほぼ警察署の近くをほとんど知らなかったが、清水警部補の方は少しは知っているようで、辰巳刑事を伴って、先導するかのように淡々と歩いている。
 二人は一緒に道を歩くことはそんなにあるわけではないが、たまにある時でも、横に並んで歩いているわけではない。必ず清水警部補が半歩前くらいを歩いて、それに伴って辰巳刑事が後ろについているという雰囲気だった。
 そのせいで二人は話をすることはなかなかなく、黙々と歩くので、歩いている時間が短いのだが、意外と疲れてしまうような気がしている辰巳刑事だった。
――清水警部補を相手に、いまさら気を遣うなんてことあるわけないのにな――
 と思っていた。
 辰巳刑事はこの日も清水警部補の背中を見ながら歩いていたが、歩いているうちに、さっきまで少し鬱状態だったのが、ゆっくりではあるが、回復してくるのが分かった。ただ、それは清水警部補と一緒にいる時だけで、きっと翌日の朝には、また鬱状態に戻っているに違いないと思うのだった。
作品名:悪魔のオンナ 作家名:森本晃次