誰がために劇は成る
父「ご苦労様、向こうで休んでなよ。後は僕がやっとくからさ」
母「ええ、じゃあよろしくね」[舞台奥の椅子に座る]
父「いつき、これ手伝ってくれ」
一樹「あ、うん」
父、下手へ捌ける。暗転。ソファーで母が座っている。母のところへ向かう一樹
一樹「あけみさん」
母「お母さん、でしょ」
一樹「ご、ごめんなさい。お母さん、今日学校で進路について考えてこいって言われたんだけど」
母「じゃあ考えればいいんじゃない?」
一樹「・・・えっと」
母「もうそろそろ自分でやれることはやってよね、お兄ちゃんになるんだから。」
一樹「・・・え?」
母「あら、言ってなかったかしら」
一樹「は、初耳なんだけど」
母「そう」
一樹「そうって・・・。ちょっと待ってよ・・・」
下手へ捌ける母。下手側に父登場。
一樹「父さん、弟が出来るって本当?」
父「ああ、言ってなかったか?」
一樹「・・・聞いてねぇよ」
一樹、ドア枠(上手側)へ行く
(赤ちゃんの泣き声)
ドア枠を境に、下手側に父と母、赤ん坊を抱えている。上手側から一樹が遠くから見ている。ドア枠を、二人との壁として表現する
父「かわいいなー、この顔は母さんそっくりだなー」
母「二人の大事な子よ、きっと素敵な強い子に育つわ。」
一樹「・・・・。」
母「ちょっとなおと、タオルケット持ってきてちょうだい」
一樹「・・・わかった」
父「かわいいなー。お兄ちゃんに負けない強い子に育つんだぞ」
母「なに言ってるの、きっとなるわよ。」
父母「はははははは」
ゆっくり暗い照明になる。奥にある長椅子に座る一樹。
一樹、リモコンでテレビをつけるマイム(テレビつけるSE)
下手側舞台の照明をつける
下手側でゆーな役とサード役の人が演者12、監督をセカンド役の人がやる
演者1「ねえ、ちゃんと答えてよ」
演者2「さっきから言ってるじゃないか。俺はなにも隠してない」
演者1「嘘よ!だって最近全然会ってくれないし、電話すら相手してくれないじゃない!」
演者2「だから何度も言ってるだろ!今はお前を優先しないと仕事が、・・・あれ」
監督「はいカット」
演者1「え?私の方優先してくれるの?」
演者2「ごめんなさい、意味が真逆ですね」
監督「そんなことしたらストーリー変わってきちゃうからねー、次は気をつけてよー」
演者2「申し訳ありません出したー!」
演者2「次はちゃんとやってよねー」
監督「よーい、スタート!」
演者1「ねえ、ちゃんとこてっ、グフッ・・・・ごめんなさーい」
演者2「あれ?うつりました?」
演者1「うっさいわ!」
演者2と監督が笑っている
下手暗転
サード役の人は下手へ退場し、愛莉と入れ替わる。ゆーな役の人はその場で電話をかける。セカンドはその場で見守っている
一樹「あはは。あはっ、あははは、わっはははは・・・」(久しぶりに笑えたことにも笑ってしまい、大声で笑い続ける。泣いているようにも聞こえる)
笑い声が小さくなり、着信音フェードイン、携帯を取る。夜っぽい照明に変える
ゆーな「あ、もしもし。あの」
ファースト「なに」
ゆーな「さっきはその、すみませんでした。勝手なことばっか言っちゃって」
ファースト「・・・」
ゆーな「・・・・」
ファースト「・・・・(10秒)」
ゆーな「あの、」
ファースト「台本書いたことあるの?」
ゆーな「え、・・・一応、あります」
ファースト「ゆーなちゃんも書いてよ」
ゆーな「え」
ファースト「あれだけでかい口叩いたんだから、相当面白いもの書けるんでしょ?」
ゆーな「それは」
ファースト「じゃあ来週持ってきて」
ゆーな「ら、来週!?」
ファースト「なに、できないの?」
ゆーな「だってそんな急に言われても」
ファースト「じゃあよろしく」
SE:携帯の音「ブッ ツーツーツー」
ゆーな「あっ」
あいり「なんて言ってたの?」
ゆーな「来週までに・・・台本書いてこいって・・・」
セカンド「あいつ、なにムキになってんだよ」
あいり「ゆーなちゃん、台本書いたことあったっけ」
ゆーな「部活動紹介の、5分間のやつ・・・」
セカンド「それだけ?」
ゆーな「・・・はい」
あいり「ど、どうするの?」
ゆーな「どうするって・・・」
セカンド「もう、台本作るしかないだろ」
ゆーな「・・・。」
あいり「やるだけやろうよ。わたしも協力するからさ」
ゆーな「・・・そうね、もうワガママ言ってられないのかも。ツケが回ってきたみたいね。」
セカンド「ここももう閉めなきゃいけない時間だからな。もういいか?」
ゆーな「はい、ありがとうございます。 ・・・それじゃあ。」
あいり「お疲れ様でした。」
セカンド「おう、お疲れ。」
先にセカンドが上手へ退場。上手側の舞台で女子二人が話し合う。
あいり「・・・あのさ」
ゆーな「ん?
あいり「その・・・結果的に、良かったのかなって思って」
ゆーな「え?何が」
あいり「高校の時から自分の台本で演劇やりたいって言ってたじゃん?」
ゆーな「ああ、言ってたわね、そんなこと」
あいり「だからちょうど良い機会かなって。」
ゆーな「そうね、こんな形だけど、ようやく私の台本が作れるのかも。アイデアはあるし。」
あいり「うん、楽しみにしてる」
ゆーな「ありがと。じゃあね」
あいり「バイバイ」
上手へ愛莉退場。その場で立ち尽くすゆーな。数秒たって上手へ退場
照明が夜っぽい照明に変わる
ファースト「なんで演劇やりたかったんだっけ・・・・はぁ。なんかバカらしくなってきたな。」
財布を取り出して小銭を確認する
ファースト「ここら辺に自販機あったかな」
下手へ退場
上手から制服姿の部長が登場。長椅子に座ろうとすると台本に気づき、座りながら
パラパラ読む。
下手からファースト登場。缶コーヒーを持ってる。
ファースト「あれ」
あいり「お、お疲れ様です」
ファースト「お疲れ。」
あいり「あの、これ、勝手に読んじゃってすみません
ファースト「いいよ、そんなつまらない台本読まなくて
あいり「つ、つまらなくなんてなかったです。
ファースト「じゃあどこがよかった?
あいり「・・・」
ファースト「やっぱ出ないよな」
あいり「キャ、キャラクターの心理描写が、すごいリアルでした」
ファースト「え?」
あいり「登場人物が何を考えてるのかが少ない文字で伝わってきました。でも、それが先輩の実話かもしれないって聞かされて、褒めるべきなのかわからなくて・・・。ごめんなさい。」
ファースト「なんで謝るんだよ」
あいり「あ、ごめんなさい」
ファースト「・・とりあえず、俺はもうゆーなちゃんに任せるよ。俺が書いてもみんなの時間奪うだけだしね」
あいり「・・・・」
ファースト「じゃ」
ファースト、上手へ退場しようとする
あいり「・・・あ、ああ、あの!」
ファースト「ん?」
あいり「も、もう一度、台本、書いてくれませんか?」
ファースト「いいよ、もう」