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雑草の詩

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「佐藤んとこもか、どこでも同じだな。金さえ黙って渡しときゃあいいんだよ。自分達も好き勝手やってるくせによ、ヒドイもんだぜ、まったく。」
「そうだよ、全く。竹下の言う通りだぜ。」佐藤の後を受けて、竹下は話を続けた。
「人の顔見たら勉強しろ勉強しろだろ、良い加減うんざりするよ、俺の名前は『勉強しろ』じゃあないぜ、全く。
 結局いくら頑張ったところでよ、それ程出来の良い頭を親から貰った訳じゃあるまいし、タカがしれてるよ。そして就職だろう、それだって親のコネでも有れば別だろうけどよ、なあんにも無しだ。
 何か別の才能‥‥‥、そうだな、野球で飯が食えるとか絵がうまいとか、芸能人にでもなれるとか、そんなものもありゃしねえ。まあ、何やったって無駄だってことさ。」
「でもさ、坂口の所はその点はいいよな。家が医者やってるし、金持ちなんだろう?」と佐藤はニヤケた笑いを浮かべて、空になった真悟のグラスにビールを注いだ。
「そんなことはないさ。」吐き出すようにつぶやいて真悟は一気にグラスのビールを飲み干した。
「一人息子だしな、周囲の連中は医者になって当然だと思ってみてるんだ。そのくせ親父と俺を見比べてやがる。お父さんはあんなだった、こんなだった。こんな良いことをしてる、あんな良いこともしてる。それなのにおまえは何をやってるんだってね。」それだけ言うと真悟はポケットから煙草を取だし、苛立たしげに三服程続けて吸った。
「そうか、金持ちには金持ちなりの悩みがあるって訳か。だけどよ、贅沢な悩みだぜ。まあいいか、一杯飲めよ、ほら。」唯一人だけ真悟の話を聞いていた佐藤は、そういって真悟にビールを進めた。
「あーあ、何か面白いことでもねえかな、気が滅入っちまうぜ。
 最近小遣いまでケチリやがってよ、参考書買うつってようやくだぜ。参るよな、麻雀まで負けちまうしョ。」
「そりゃ、腕が悪いんだよ、石田。」佐藤は笑って石田をからかった。
 一方では、
「オイ、上田、元気ねえな、まだあの女の事考えてんのか。
 いいかげんにあんな女、忘れっちまえよ。女々しい奴だな、お前は。とにかく、飲めよ、さあ。
 みんなも、飲んでくれよ。一人勝ちしちゃって悪いねぇ。まあ、俺がおごるからさ、どんどん飲んじゃってくださいな。」
「竹下、お前んのは感情麻雀だから、あんまりパッパ使わねえ方がいいんじゃねえか。負ける時は、一二万すぐに負けるくせして。」
「まあまあ石田さん、その台詞は勝手から言いなさいよ。負け犬の遠吠えは惨めになるだけですよ。
 さあさ、皆さんもどんどん飲んでくださいな。アッ、マスター、ビールもう二三本持ってきて!」
 麻雀で一人勝ちした竹下は大きな太鼓を背負ったように背中を丸めて、陽気にはしゃぎながら空になったグラスにビールを注いで回った。

 ところどころに染みの浮いたぼやけた茶色の壁にもたれて、彼等は取り止めもない話を続けている。立ち籠めた煙草の煙と低く流れる音楽、全てのモノは無造作に投げ出され、彼等の回りをグルグル回るだけだった。やがてテーブルの上にビールの空ビンが散乱し始める頃には、彼等の会話の内容はもう十分に大人のものとなっていた。
「よう、みんなちょっと静かにしろよ。」
 それまで薄笑いを浮かべて冷ややかに仲間を眺めていた山口の声に、彼等の会話は中断された。そしてみんなの視線を確認すると、鼻筋の透った甘く端正な顔を覆った髪を掻き上げながら山口は話し始めた。
「みんな、俺の家がマーケットやってるのは知ってるよな。それでよ、けっこう良い女が買物に来るんだ。」
「お前の良い女ってぇのも、当てにならねぇからな。この前の飲み屋の女だって、」石田が話の腰を折った。しかしそれには構わずに山口は話を続けた。
「黙って聞いてろ。
 その女っていうのが、喋れねぇんだ。耳も聞こえねぇのよ。
 その上、一人暮しだ。」山口は、ひとりひとりの顔を嘗めるように見渡した。そして短い沈黙の後、
「どうだい、最高の条件だろう。若い女だ、片端だ、一人暮しだ。そして、美人だ。」山口は都合四本の指を折った。そして不適な、ハ虫類にも似た笑いを浮かべたまま、
「みんなで姦らねえか。
 大丈夫だよ、心配なんかすることねぇって。何やったって喋れねぇんだし、第一サツへなんかとても恥ずかしくて行けねえんだ。」そう言った。
「でもよぉ、やっぱりなあ‥‥‥。捕まったらおしまいだぜ。」気乗りしないふうで、佐藤は小さくツブやいた。
「心配するなって、佐藤。大丈夫だよ、強姦された女なんて、まづサツにはいけないんだ。同じことを繰り返し演じさせられるからな。どういう形で姦られたんだとか、どんな事をされたんだとか、 恥ずかしいから泣き寝入りって訳さ。
兎に角、最高のスリルじゃねえか。ものすげぇ美人なんだぜ。胸も腰もサイコーでよ。勿体ねえ話じゃねえか、計画もバッチリ立ててあるんだぜ。」
「ど、どうやるんだよ。」上田が身を乗り出して尋ねた。
「よし、そうこなくっちゃいけないぜ。」上田の声に、山口の瞳が一段と輝いた。
「いいか、そいつはいつもは六時頃帰るんだけど、週に二回九時頃俺ン家の前を通るんだ。決まって二回、今日がその日なんだ。それからそいつのアパートまで二、三キロってとこかな。兎に角俺ン家から少し行くと神社や墓があってその先は人家が跡絶えるんだ、回りは畑ばっかりさ。
 その墓を過ぎてちょっ行った所に工事現場があってよ、夜になったらそこらは街灯もねえし気味悪いから人もあんまり通らねえんだ。今頃だと九時過ぎたらもう真っ暗だろう、人通りはゼロさ。
 まあ、その女は真っ暗な夜道を一人で帰るって訳だ。後はその工事現場へ連れ込んじまえば、一貫の終わりって寸法さ。たとへサツに行ったってよ、真っ暗で誰が誰だか解りゃしねえし、それに口もきけないんだぜ。心配なんかすることねえって。こんだけの人数がいりゃ、すぐにカタは着くさ。
 お前ら、こんなチャンスは滅多にないんだぜ。まあ、あんな良い女とただでできるチャンスはな。」
 一人一人の顔を嘗めるように見詰めながら語り続ける山口の言葉は、アルコールの染み渡った連中の内に深く吸収されていった。その自身に溢れた語り口に、もはや誰一人異論を唱えるものはいない。やがて連中の目の色が変わっていった。
 真悟は、初めっから賛成も反対もなく唯漫然と山口の話を聞いていた。悪いことだとは思うが、山口に反対するだけの勇気も、悪友でも友を失うような真似を敢えてやるだけの気持ちもなかった。唯このグループの一員として、無言のまま全体の意志に従うだけだった。
 やがて。酒気に煽られた酔っ払い達は即日決行を決め杯をあげると、勇んで山口の住む街へと向かったのであった。

         2

 「来たぞ!あの女だ!」
 山口の声に皆一斉に振り向いた。女は丁度駅の改札を抜けたところだった。駅前広場のベンチに腰掛けて缶ビールを煽っていた男達は、先に歩き始めた山口の後を追うようにして一斉に立ち上がり歩きだした。
 駅前の商店街の外れにある山口の家で買物を済ませると、賑やかな本通りから、女の足は人通りの絶えた住宅地へと向かっていった。
作品名:雑草の詩 作家名:こあみ