雑草の詩
真夏の空には溢れんばかりの星が輝き、人通りを無くした道もほのぼのと明るい。通い馴れた道を、買物した品々を手にいつものように軽い足取りで帰る女、それを追う六人の男達。この六匹の血に飢えた狼達は、つかず離れず、何も知らずに歩いて行く女の後ろ姿に淫らな思いを馳せては、流れ出すヨダレを拭くことさえ忘れて、ぞろぞろと後を付けて行く。
家々から漏れる明りや街灯の照明の中を歩き続けて、やがて女の姿を照らし出すのは空から降り注ぐものだけとなった。そして人家の外れにある墓地を通り抜けると辺りは一面に暗く沈んだ田畑ばかりで、暫く行くと白いテントで囲まれた工事現場が現われたのだった。山口の説明通り、女と六人の男達を除いて、行く人の姿も来る人の姿も認められなかった。
男達は血走った目を殊更に見開いて女の後を追った。何も知らずに歩いて行く女の足は徐々に工事現場へと近づいて行く。
「よし、今だ!」
山口の声を合図に男達は一斉に駆け出した。狂った野獣のように、女をめがけて。
腰の辺りに貪り着いている者、手足を力任せに捻上げている者、首を羽交い締めにしている者、それぞれが女の体を好き勝手に捕えたまま引きずるようにして工事現場の中に運んだ。そして女の手足は抵抗できぬように手分けして押さえつけられた。
四人の男にそれぞれ手足を押さえつけられ、身動きの取れぬ体の上に馬乗りになった山口の手で乱暴に身に付けている服を引きちぎられながらも、女は必死でもがき、目には涙を浮かべて声にならぬ声を上げようとした。しかし、声にすることさえ出来ない。「この野郎、大人しくするんだ!」
女の体に馬乗りになったまま、山口はその頬を数発殴りつけた。山口の顔は狂気にも似た薄笑いを帯び、頬にはピクピクとした異常なケイレンが走っている。
しかし女は抵抗を止めようとはしなかった。その手をその足を懸命にバタつかせて男達の手から逃れようとした。安物の、夏着の薄いブラウスは形をとどめぬ程に引き千切られ、スカートは裂かれ、その豊かな乳房や下半身を僅かに包んでいる白い布地には血がにじみ、殴られた頬や爪先で傷つけられた体中のあちこちに、赤い血は滴り流れていた。
何もできずに、襲うことも山口達を制止することもできずに、ただ体をガタガタ震わせ眼前の地獄絵を見詰めていた真悟。獲物を貪るように、激しい欲情のままに女に喰らいついている男達。そのか細い腕で足で、必死に逃れようと、五人の野獣を何とか払い退けようと、苦痛に顔を歪め力の限り抵抗している女ー。
「ワーッ!」
絶叫と共に、真悟は猛然と駆け出した。言葉にもならぬ奇声を発しながら女の体に喰らいついている獣共の上に躍り上がり、力任せに鷲掴みにして、一人はね退け二人はね退け、振り回せるだけ手を振り回しそこらにあるものをメチャクチャに蹴散らした。体中の血液は最大限のスピードで逆流し、怒りでその身は今にも火を放たんばかりだった。しかし多勢に無勢、美しい獲物を前にして完全に目の色を変えてしまっている獣共に、その力だけでは歯の立つ道理もなかった。遂には攻撃の目標を変えた男達によって殴り倒され、体中の到る所を思うざま蹴られて、真悟は血ヘドを吐きながらその場に倒れ伏したのだった。
薄らいでゆく意識の中で真悟の瞳に写し出されたものは、衣服を引きちぎられ、羞恥と苦痛と憎悪に顔を歪める女を狂ったように笑いながら犯し続けている山口達、自分の友人達の姿だった。
すべては終わっていた。
獣共は退散し、残された二人を包む夜はいつものように静かで、星さえも変わらずキラビヤカに空を飾っている。
肩を落とし、地面に力なく座り込んだまま、身体を小刻みに震わせながら女は泣いていた。全裸に近いその体中のあちこちから血は流れ、音にならぬ声は喉の奥底から涙と共に溢れ出していた。泥だらけのその身体のどこにも、もはや立ち上がる気力さえ残されてはいなかった。
時間は緩やかに、緩やかに二人だけの時間を横切っていった。そして、やっとの思いで立ち上がった女の頭の中にはただ一つの言葉だけが浮かんでいた。
引きちぎられた服を拾い集めるようにして身を隠し立ち上がった女の、空ろに力なく開かれた瞳の下には、とめどなく溢れた涙の後が帯となり月の光を反射させてキラキラ輝いていた。そしてフラフラと、一歩づつ頼りなげな足取りで彼女は歩き始めたのだった。
モノを考えられる状態ではない頭脳の生んだ言葉、その言葉だけを頼りに必死で彼女は歩く。そして近くの交番の前まで辿り着いた時、お巡りさんの顔を見た瞬間に、張り詰めていた総ての力を失った彼女は、その場に倒れ込んでしまったのだった。