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血の繋がりのない義姉弟と義兄妹

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。

            姉の事故死

 今年、二十三歳になる綾羅木由紀子は、昨年大学を卒業し、今はOL一年目だった。一人の男性のことが好きで、その思いを六年引きづっている。最初の出会いは、姉の彼氏として紹介されたことだった。姉は当時、二十二歳、すでにその時の姉の年齢を超えてしまった。
 だが、自分が年を取るのと大好きな男性が年を取るのは同じなので、年齢差が縮まることはありえない。自分が年を取った分、その人も年を取るのだ。
 由紀子は、姉の彼氏としてその人を紹介された時、
――姉と幸せになるんだろうな。私にもこんな素敵な彼氏が現れないかな――
 と漠然と思ったのだ。
 当時まだ高校一年生の由紀子には彼氏はいなかった。その時たまたまいなかっただけというだけではなく、彼氏がいたこともなかった。まだ高校一年生なので、当たり前だといえば当たり前なのかも知れないが、まわりには結構彼氏がいる子が多かったので、羨ましく感じていたのも事実である。
 中学までは公立だったので男女共学だったが、高校では女子高になってしまった。成績で行ける学校が女子高だったというだけで、女子高になってしまったのだが、入学した当時は共学だろうが、女子高だろうが、あまり気にしていなかった。だが、まわりの女の子はどこから見つけてくるのか、彼氏がいる子が多い。彼氏が欲しいというよりも、彼氏がいることが羨ましいという思いの方が強く、好きな人というのがどういう感覚なのか、それが分からなかった。
 だが、羨ましさが、欲する気持ちを誘発するのは間違いないようで、由紀子の場合は、彼氏がほしいと思ったきっかけは、間違いなくまわりに対しての恨めしさから来ていたようだった。
 そんな時、姉に紹介された、
「この人、私の彼氏なの」
 というのは衝撃だった。
 姉は、あまり妹に自慢をするようなことはなかった。ひょっとすると、彼とはすでに深い仲になっていて、彼の家族にもすでに会っていたのかも知れない。彼が家族に合わせてくれたのであれば、自分も家族を紹介しなければいけないという思いからか、まず妹の由紀子に紹介したのだろう。
 その後、家族に紹介したようだったが、父も母も、その人に対して不満があるわけでもなく、普通に受け入れていた。
 女性側の家族が一番の難関だと思っていた由紀子は、両親が認めたその人が、本当に素晴らしい人なのだと思うようになった。
 姉の方もオープンにしてくれていて、
「由紀子も何か悩みがあったら、相談すればいい」
 と彼との連絡先の交換を承認してくれた。
 逆にいえば、それだけ姉たちカップルの仲がすでに結婚秒読みくらいにまで来ているという証拠でもあったのだろう。
 彼の中江は坂出恭一と言った。当時の年齢は三十一歳。姉とは十歳近くも離れていることになるのだが、それくらいの年の差の方が却ってうまくいくのかも知れないと思った。
 実際に両親も年の差が八歳ほどあって、じっさいにうまく行っている。むしろ年齢を重ねる方が年の差は分からなくなるもので、話さえ合えば、それほど大きな問題ではないのだと思っていた。
 二人も実際にそう思っていたのだろう。人も羨むような蜜月時代を過ごしているようで、思わず距離を置いてみたいと思うくらいの二人に、由紀子は少し嫉妬していたのかも知れない。
 由紀子は、高校二年生になった頃、通学電車の中でいつも一緒になる高校生と知り合った。
 彼も同じ高校二年生で、近くの男子校の生徒だという。彼の方から声をかけてくれたのだが、最初はビックリした。朝の通勤は、いつも一人で、彼も一人だったこともあって、彼の方では由紀子のことを意識していたということだった。
 由紀子の方では、まったくと言って意識をしていなかった。
 別に彼のことが嫌いだとかいう意味ではなく、一人でいる時の由紀子は、いつも何かを想像していた。
 妄想の世界に入り込んでいたと言ってもいいのかも知れないが、彼女にはメルヘンチックなところがあり、一人でいると、そういうメルヘンチックなものを想像する癖がついてしまっていた。
 その癖は無意識なものであり、メルヘンの中に自分は出てくるのだが、それ以外のリアルな知り合いは出てこない。あくまでも自分が創造した妄想の世界だからである。
 妖精のような女性が出てくるのだが、その女性だけは姉に似ていた。もちろん似ていると思っているだけで姉ではないし、姉を意識しているという思いもなかった。ただ、姉に似ていると思うと安心できるのであり、そう思うことで自分が姉のことをどれだけ慕っているのかという証拠でもあった。
――そんな姉がまもなく結婚してしまおうというんだ――
 と思った時、いたたまれない気分になってきた。
 この妄想の世界で現れる妖精が、姉の結婚とともに現れなくなると、自分はもう、
――妄想などできなくなってしまうのではないか?
 と感じてしまうことが怖かった。
 逆に、もう一つの懸念もあった。
――妄想の世界から抜けられない気もしてきた――
 というものであり、この妄想が今は通学中の一人でいる瞬間にしか見ることはないが、もし夢で見るようになってしまったとしたら、その世界から抜けられないということは夢から目を覚ますことができないというこで、そのまま死んでしまうのではないかと思えて、そちらの方が恐ろしかった。
 夢から覚めないということは、ずっと眠り続けるということになるのか、メルヘンの世界であれば、美しいものなのかも知れないが、実際であれば、これほどむごいことはない。自分はただ眠り続けるだけだが、まわりがどのように思ってしまうか、それを考えると、黙ってやり過ごすことが怖く感じられるのであった。
 何かついついネガティブな気持ちになってしまうのはどうしてなのか。せっかく彼氏ができようとしているこの場面で、彼氏ができてしまうと、絶えず彼は自分と一緒にいたいと思うだろうし、自分も彼とずっと一緒にいたいと思うようになれば、妄想の世界に入ることができなくなる思うのだ。
 別に妄想の世界の代償が、彼ができるということではないはずで、妄想の世界と彼氏ができる喜びを天秤にかけるつもりもない。
 しかし、自分を納得させるためには、天秤にかける必要ができてしまうのだ。
 そのためには、彼とお付き合いする必要があった。彼が嫌いだということも、彼に不満があるというわけではなく、彼氏ができることは嬉しいことに違いはないのに、付き合う理由の一番が、
――天秤にかけることを自分で納得できるのかということの証明だ――
 というのは、いささか不純な気がしてきた。
 自分にとって大好きな人、それが本当に彼なのかを知るために付き合うというのも、どこかおかしい気がしている。