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間隔がありすぎる連鎖

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 そうなると、松川社長の誘拐事件、何を置いても、一番優先されなければいけないのは、誘拐された社長が無事に戻ってくることではないだろうか。誰もが気にしながら業務をしているので、皆おかしな雰囲気での仕事場となっている。木下課長や北川副主任の二人が支店内を仕切らなければいけないだろう。支店長は、警察との対応、本社との対応、マスコミの対応と、相当な神経を消耗していたことだろう。それを思うと、支店内をまとめることに二人は集中し、手が空いた方が、支店長を補佐するくらいの余裕がなければいけないに違いない。
 ただ、木下課長は、まわりをいさめながらも、社長の心配をしていることが垣間見られた。しかし、北川副主任に関しては、社長のことを実際に気にしているようには見えなかった。
「現場を回すことが一番」
 と言いながらも、実際には余裕もあるように見られた。
 そのため、支店長の補佐にも回っていたのだが、この三人の中で一番落ち着いていたのは、明らかに北川副主任だった。
 それを見て。横山警部補は、
「北川副主任が誘拐事件に絡んでいるのは間違いない」
 と思った。
 だが、そうなると、今回の木下課長殺害が分からない。もし何か都合の悪いところを見られて脅迫でもされていて、殺すことになったとしても、この殺人における、お粗末さは、いくら何でも、北川副主任が起こした殺人ではないと思える。
 少なくとも誘拐が狂言で、北川副主任が一枚噛んでいるとするならば、木下課長殺害は衝動的でもなければありえない。
 ただ、北川副主任に衝動的な殺人ができるだろうか。いきなり襲われての正当防衛のようなものであれば、分からなくもないが、正当防衛であれば、そういえばいいだけで、このまま死体を放っておいたのもおかしい。
 木下課長の殺害現場を調べた鑑識の話によると、指紋が拭き取られた形跡もあければ、見ている限り、偽装工作などまったく施されておらず、殺人とすれば、
「これほどお粗末なものはない:
 ということであった。
 しかし、それだけに、指紋も無数についているだけに、指紋から犯人を特定することは難しいし、お粗末であればあるほど、実に自然体による殺人ということになり、捜査とすれば、困難を極めることは分かっていた。
「まさかとは思うが、これはこれまでとは関連していない犯罪?」
 とも言えるのではないかと思った。
「連続殺人というほどの殺人が行われていないことから、自分たちが求めている真相の中で、本当お殺人事件など存在していないのかも知れない」
 とさえ感じたほどだ。
 しかし、刺殺されているのは間違いない。横山警部補は、これらをどう考えればいいというのだろうか?

                社長生還

 事件が急転直下で解決したのは、それから三日後のことだった。真夜中に一人の徘徊している男性を、警ら中の警官が保護したことから始まった。その男性は足がおぼつかない様子で、まるで生まれたての仔馬のように危なっかしい状態で歩いていたのだ。
 知らない人が見ると、
「酔っ払いだ」
 と思われて、なるべく近づかないようにして歩くことだろう。
 しかし、歩きながらも吐き気を催しているわけではなく、ただ足元がおぼつかないだけで、その表情は真剣そのものだった。逆に真剣過ぎて怖いと思えるほどで、意識自体はハッキリとしていたのではないだろうか。
 実際にその人が探していたのは交番だったようで、ちょうど警官に保護されたのは嬉しかった。
 髪の毛もボサボサで髭も生え放題、服もジャージのようないで立ちだったこともあって、最初は警官もその人がどういう人なのかまったく想像もつかなかった。しかし、
「私は、松川大吾というものです」
 と名乗ったとで、
「えっ? 松川さんといえば、松川コーポレーション社長の?」
 というと、本人は、息も絶え絶えに、何とか頷いた。
「分かりました。少々お待ちください」
 ということで、誘拐から十日ほどが経って、犯人から何も言ってこない状態で、暗礁に乗り上げていた誘拐事件が、まさか本人が出頭してくるという前代未聞の結末を迎えた。社長の衰弱が激しかったので、総合病院の救急に運び込み、審査つぃを受け。今は点滴を受けている。警官は急いで本書の横山警部補に連絡を入れ、即行でやってくることになったのだ。
 当然、K支店の支店長にも連絡が入り、横山警部補が本書から到着したのとほぼ同じくらいの時間に、支店長と、北川副主任が駆けつけてきたのだ。
「社長、大丈夫でしたか?」
 と支店長はホッとした様子で訊ねた。
「ああ、なんとか大丈夫だったよ」
 きつそうにしているのを見て、警部補と支店長は心配そうに見ていたが、それを見た警官が補足説明する形で、
「松川社長は監禁されている状態で、ここ数日食事もしていなかったようなので、それで少し衰弱していますので、この病院へ入院していただきました。話くらいなら少しはできるという医者の話でしたが、きつそうになったら、そのあたりはその時の状況をご考慮ください」
 と言った。
「食事も与えられないというのは、誘拐しておいて、それは酷いじゃないですか?」
 と支店長は言った。
「いや、その件に関しては、私を誘拐した連中には罪はないんだ」
 というのを聞いて、横山警部補が口を挟んだ。
「二つ気になったんですが、今の話ですと、連中ということは一人ではなかったというんと、もう一つは、誘拐は本当の誘拐ではないということですか? 私はこの誘拐を少し疑ってはいましたが、複数犯だとは思っていませんでしたね。でも、今のお話を訊いて、二人のうちの一人が、木下課長ではないかと思いました。あなたが放置されたのは、木下課長が戻ってこなかったからではないですか?」
 と言われて、
「ええ、その通りです。あの日、倉庫が燃えて、倉庫から死体が二体見つかったと聞いて、一人が息子の貞夫だということを木下課長から聞かされました。そして今のままでは、子度は社長である自分が危ないので、とりあえず誘拐されたことにして姿をくらませようということになったんです。誘拐されたということになれば、警察も動きますから、ただ隠れただけだと犯人が動いても動きやすいでしょう? でも誘拐ということにすれば、警察が動いてくれるので、安全だということでした。狂言誘拐というのは悪質なのは分かっていましたが、こちらとしても生命の危機ということで、こういう手段に出るしかなかったんです」
 と社長がいうと、
「じゃあ、もう一人というのは?」
 と支店長が訊いた。
「貞夫の義母弟の定岡哲郎だったんです。この誘拐を考えたのは哲郎でした。彼は本当は、あの火事で兄と一緒に殺されるはずだったんです。しかし、彼は機転を利かせて、兄を殺したやつを中に閉じ込めて、脱出したんです」
「ちょっと待ってください。でもその死体は三日以上経っているというような話をしていませんでしたか?」
作品名:間隔がありすぎる連鎖 作家名:森本晃次