続・嘘つきな僕ら
「僕は、高校時代、どうしようもない不良でした。でも、誰も見向きもしなかった僕に、稔君だけが優しくしてくれたんです。だから、僕は今、真っ当に生きています」
雄一は、昔を懐かしむように話し、最後に父さんを見た。父さんは、ちら、と雄一を見たけど、大して顔色を変えずにまた俯く。
「稔君は、僕を変えてくれました。それから、これからの一生を、僕が稔君を支えたいと思う気持ちを、許してくれました。だから、どうかお父さんとお母さんも、それを…」
そこで父さんが、ぱたんと手で軽くテーブルを叩いた。雄一は喋るのをやめる。
「すると、あの頃稔がつるんでいた不良学生は、君か?」
“まずい!”
僕は、自分もテーブルに腕を乗り出して、父さんを説得しようと思った。でも、雄一の方が早かった。
「…はい。そうです。その件について、僕は謝ります。お父さんと、お母さんに…」
そう言っても、父さんと母さんは何も言ってくれなかった。僕はそれを見ながら、とても寂しい気持ちだった。
「ね、ねえ…」
僕は、縋るような声で、父さんと母さんに呼びかける。
“どうして?「一緒に居たい」って言っただけなのに…”
僕は、父さん母さん二人に向かってよろよろと腕を伸ばした。
「お願いだよ…僕は、雄一と一緒に居たいんだ…」
僕は、溢れそうになる涙で目の前が滲んで見えず、不安がどんどん大きくなって、怖くて仕方なかった。
しばらくは誰も何も言わなかったけど、父さんがやっと口を開く。
「話は分かった。でもな、雄一君。君にとって稔は恩人かもしれないが、私たちにとっては、君は“稔に道を誤らせた人間”でしかない。そんな人に、稔を渡す訳にはいかないんだよ」
僕は、もう我慢が出来なかった。昂り切った緊張の糸がぷつっと切れ、両目から一気に涙が噴き出す。
「お父さんがそう言いたいお気持ちは、分かります。でも、僕たちはもう、お互いの存在無しには生きていけません」
「ふふ、知ったような事を言うんじゃない。二人はまだ若いんだ。これから先、いくらでも他にいい人が見つかる」
「そんな事…」
「うちの息子だけはやめてくれ。君とはもう関わらせる訳にいかないから」
「それはあんまりです、お父さん」
「いいかい。稔の事を忘れてくれ」
僕は、今にも飛び出しそうになっている言葉を、必死に喉元へ押し返していた。でも、ここでそれは出来なくなった。
僕は、どうやって体に力を入れているのか分からないまま立ち上がり、テーブルに勢いよく手をついた。そして、俯いたまま叫ぶ。
「…縁を切る…!」
「稔…!?」
母さんがびっくりして僕を見つめているのが分かる。でも僕は涙で前が見えなくて、俯けている顔も上げられないまま、もう一度言った。
「僕が!父さん母さんと縁を切る!」
そう叫ぶと、雄一が僕の腕を掴んで、僕を座らせようとした。でも、僕は今だけその手を振り払う。そして、父さんを睨みつけた。
「この家を出る!そうしなきゃ彼と一緒に居られない!どうしてさ!好きな人と一緒に居たいってだけなのに!彼は僕をとても大切にしてくれているのに!いいよ!もうこんな家には居たくない!」
僕は叫び切って、最後にもう一度、両手で思い切りテーブルを叩いた。
「稔、待って…!」
そう呼ぶ母さんには、構わなかった。父さんが“ああ”なら、話にならない。
僕は雄一の手を取り、引っ張る。
「雄一、帰ろう…」
引っ張ったはずの雄一の手が、全く動かない。彼は、物凄い力で、その場に踏ん張っていた。
顔を見ると、雄一はゆっくりと首を横に振り、こう言った。
「稔。落ち着け。席に座って、話をするんだ」
僕はそこでまた涙が込み上げた。
“だって、上手くいくはずがないのに、僕たちは引き裂かれようとしてるのに…!”
「もう話をする必要はない。君は帰ってくれ」
父さんが、雄一に向かってそう言っている間に、僕は雄一に手を引かれ、椅子に座らされた。
「いいえ、帰る訳にはいきません。僕たちの事を認めてもらうまでは」