続・嘘つきな僕ら
20話「温かい涙」
眠られないで迎えた翌朝、僕達はなるべく落ち着きのある服に着替え、髪型を整えて、家を出た。
電車が枕木を一つ越す度に、僕は「その時」が迫るのを感じて、気が気じゃなかった。隣に居る雄一も、少し緊張しているのか、もじもじと落ち着かない様子で、前髪をいじったりしていた。
その家は、大きな門の手前にインターホンがあり、門の隙間からは、綺麗に手入れのされた庭が見えた。雄一はインターホンのボタンを押し、すると、キンコーン、という電子音が二度繰り返され、中からこう聴こえた。
“おかえり。入って”
これ以上緊張したら死んでしまうだろう程に、僕はカチコチになっていて、今体を叩いたら、いい音がするだろうなんて、変な想像をしていた。
目の前には、三つの小さなティーカップが並んでいて、ベルガモットの香りが、紅茶から立ち上っていた。
僕はとても顔を上げる事なんか出来ずに、白い湯気が生まれては消える、紅い水面を見つめている。
彼のお母さんは、黒く長い髪を後ろで緩くまとめ上げ、淡くくすんだピンク色で、丈の長いワンピースを着ていた。
目鼻立ちが雄一に似てくっきりとしていて、僕を迎えて微笑んだ顔は、まるで女神のように見えた。
“どうぞいらっしゃい。遠い所をありがとう”
そう言われた時、僕は自分が歓迎されているのが分かって安心したけど、そうすると今度は、彼のお母さんに申し訳ないような、不安な気持ちが込み上げてきた。
僕達二人が席に着いてから、雄一のお母さんがお茶を入れ、カップに注いでからも、しばらくは全員黙り込んでいた。僕は一度顔を上げたけど、雄一のお母さんは僕達が喋るのを待とうとしているのか、唇をむずむず動かしながらも、黙っていた。