続・嘘つきな僕ら
僕はその日、雄一と再会してから五回目の誕生日を祝ってもらっていた。
「おめでと!稔!」
「ありがとう」
「はいこれ、プレゼント」
「お、ネクタイ!けっこういいやつ?」
「もちろん」
「俺からはライター」
「すごーい、綺麗なジッポ」
「真鍮だよ」
「ヘー!ありがとう!」
パーティーの会場としたイタリアンのレストランで、僕は、もとは雄一の友人で、今は僕の仲間にもなった友人たちから、いろいろと贈り物を渡された。
コース料理をみんなで堪能する間に、全員ワインを飲んで酔っ払い、ケーキが運ばれてくる頃には陽気に騒いでいた。僕は、その日が楽しくて仕方なかった。
雄一は、みんなと居る時には、決まって僕の真正面の席に座って、僕が楽しそうにしているのを、にこにこしながら見ている。みんなの前でいちゃいちゃとやるのは、ちょっと恥ずかしいみたい。
でも、僕はその分、仲間みんなと喋って、笑って、時には愚痴をこぼして励まされ、違う誰かが落ち込んでいる時には、自分がしてもらったことを懸命に返した。
“あの頃とは、違う”
またそんな思いが僕の胸を過った。
高校生の頃、クラスの誰とも喋らず、その後一生を孤独に過ごそうと決め込んでいた、僕。
そんな僕が、こんな風に温かい友情に包まれているなんて、想像しなかった。いつもそれが有難かった。
今日のパーティーの出席者は、僕と雄一、それから白澤君、剣持君、緒方さんだった。白澤君と剣持君は僕たちと同い年で、前の会社で雄一と同期だった。緒方さんは今の会社の同僚だけど、歳は僕たちの二つ上だ。
白澤君は、初めて会った時も僕の隣に座っていた。彼はいつもその位置を陣取り、そこから僕と雄一を交互に指さして、僕たちが仲の良いのをはやし立てるのが好きだ。
剣持君は無邪気な学生のように元気で、緒方さんは年齢並みに落ち着きのある方。だから緒方さんはまとめ役をいつも買って出てくれる。
他にも一緒に飲んだり食事をしたりする人は居るけど、大体いつも必ず集まってくれるのは、このメンバー。
「それにしても、相変わらず酒強いよな、稔は」
「ふふふ~」
僕は、グラスに何杯目かわからないワインを飲んでいて、隣に居る白澤君に笑った。
「雄一、お前も負けるなよ」
白澤君がそう言うと、雄一は呆れたように首を振る。
「ザルと勝負する気なんてねえよ」
「ははは」
白澤君は機嫌よく酔っている。その時、はす向かいに座っていた剣持君が、ちょっとこちらを覗き込んで、内緒話をするように片手を口元に当てた。僕はそこへ向かって体を屈める。
「前にな、稔居ない席で、雄一が本気で酔っぱらった時に、「今からプロポーズしに行く」って言って、会計すっ飛ばして店出てったの。探すの大変だったんだよ?」
そう言って剣持君は、いししし、と笑う。
「そんなことあったの?」
僕はその時、いつもあった不安と、彼への感謝との、半々の気持ちが胸に湧いた。
「おめえら、何コソコソ喋ってんだよ」
「なんでもなーいよ」
剣持君はもったいぶった素振りで席に座り直して、ワイングラスを傾ける。僕もケーキの残りをちまちまと食べた。
パーティーが終わって家に着くと、扉が閉じた途端、雄一は僕を急に強く抱きしめた。僕は驚いたけど、抵抗するわけもないので、されるがままに抱きしめられていた。
「…どうしたの?」
彼は、しばらく何も言わず、じっと僕を抱いていた。それから大きく息を吐いて、僕の体を抱え直す。今度は優しく。
「剣持に聞いたろ」
僕は、さっき聞いた言葉を思い返し、体中が硬直するのを感じた。もしかしたら、怖くて、嫌だったのかもしれない。これから雄一が言うことを聴くのが。
「そろそろ、俺たち、両親に挨拶しよう」