続・嘘つきな僕ら
僕はそれから、彼との出会い、その後の付き合いと、別れ、再会についてを、つらつらと語った。谷口さんは僕に何かを聞くことはあまりなく、僕が一人で喋っていたに近かった。
「えー!嘘ー!すごーい!運命的じゃん!よかったねまた会えて~!」
話が終わったことが、数秒の沈黙により証明された時、谷口さんはまず、そう叫んだ。僕はそこで、“やっぱり聞いてもらえた”と思って、嬉しかった。
「ええ~、でも、それじゃあ、今までごめんなさい!私ずっと彼女さんだと勘違いしてて、無神経なこといっぱい言っちゃって…」
「いえいえ、僕の方が、言わずに騙してるみたいなのが嫌だったから、話したくて…」
「そっかぁ…」
そこで一度場は静まって、谷口さんは下を向いた。僕は話し終わってから、ずっと自分の想い人の話ばかりしていた気恥ずかしさに、頬を掻く。
「でも…話してくれて、うれしい」
「え…」
今度は、僕が驚く番だった。谷口さんは顔を上げ、僕を見据えて微かにだけ、どこか勇敢に微笑む。
「私が、話しても大丈夫だって思ってもらえたんでしょ?それって、信頼されてるみたいで、嬉しいよ。これからも、応援する!」
そう言って彼女が微笑んでくれる。
“あの頃とは、違うのかもしれない”という言葉が、僕の胸に湧く。
誰かの意思で、関係を引き裂かれてしまった、幼い頃と、立派に自分の思いを認めてもらえる今は、やっぱり違う。恐れる必要がないなんてことは、どんな関係においてもないけど、僕たちは、この関係を支えてくれる人たちの中に、今は居られる。
それが僕にとって、どれほど欲しいものだっただろう。
「ありがとうございます…谷口さん」
「ふふ。いいの」
谷口さんは、泣いてしまいそうな僕の頭をテーブル越しに撫でた。
「あ、それで、どんな人なの?写真とかある?」
「あ、ありますよ。この間の旅行のとか」
「へえ。見てやりましょう」
言いながら、谷口さんは薄赤いバイスサワーを一口飲み込み、僕が差し出したスマホの画面を覗き込んだ。
「えっ!?ちょっと待って、めっちゃイケメンじゃん!」
僕は、その言葉がとても嬉しかった。だからつい、惚気を言いたくなってしまった。
「かっこいいでしょ。しかも、家事とかすごく手伝ってくれるし、僕にとても優しいんです」
「へー…」
僕は、その時谷口さんが若干の嫌悪感を顔に出していることに、気づかなかった。彼の魅力を語れる場所を逃したくない一心で、喋り続ける。
「何かをするのに努力をし始めると、人並み以上の結果が必ずついてくるし、記念日も忘れずに祝ってくれるんですよ。誕生日の時は、僕が仕事が遅くなって、「その日の間に祝えなかった」って、むしろ怒られちゃいました」
そこで僕は急に、頬をぐいっとつねられた。
「いで…いだいです、谷口ひゃん」
見ると、谷口さんは不機嫌そうにひねた顔をしていて、でもそれは、ちょっとコミカルに作ったような表情だった。
「幸せそう過ぎて、むかついてきた」
「それは、どうもすみまへん…あの、手、放ひてくれませんか…」
そんなこんなで、カミングアウトは済んだのだった。