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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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続・嘘つきな僕ら

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その夜は、海からの風を引き入れた部屋の中、野生の潮の香が、僕たちの熱を溶かして、渦を作っていた。

僕たちは、浜辺のさざ波を聴かなかったし、煌々と照っていたんだろう月を眺めもしなかった。

部屋に入った途端に、彼は僕の手を引いて、僕の体をベッドに投げつけると、圧し掛かってきた。

それを僕が承知で引き寄せ、彼の頬が青白い月光に照らされているのをちらと見てからは、僕たちは時を忘れ、人を忘れ、愛すら置き去って求め合った。




「ねえ…僕たちってさ」

隣で雄一は、煙草を吸っている。僕も指に煙草を挟み、旅館の大きなバスタオルで体を覆っていた。

「うん?」

彼は煙草から口を離さず、窓から見える海辺の景色を見ている。部屋の灯りは真っ暗で、月の光が散らされてきらきら輝く海の水が、一望できた。

僕は、言い差してから、言うのをためらった。

“あんなに愛し合ったばかりなのに、もう不安なんだ”

彼にそう思わせるのが嫌だった。でも、不安な気持ちを黙っていたら、それが実現されてしまうことを、「過去」に学んだ僕は、思い切って口に出す。

「この旅行のこと、誰にも話せない、よね…」

僕たちは、周りからどう思われるかが、自分たちの関係まで変えてしまうことも、知っていた。

雄一が学生時代に、僕たちの関係を彼の父親から咎められたこと。それを今、彼がどう解決しているのかは知らない。十中八九、秘密にしているだけ。でも、不安だから聞けない。

僕は、会社の後輩の鈴木君になら、話ができるだろう。でもそれは、「誰か」と言っただけで当てはまる、60億の人間のうちのたった一人。それも、赤の他人なのだ。

「俺は言える奴いっぱいいるぜ」

聴こえてきた声に、僕はまず驚いた。雄一の声はわりあい明るく、でも僕のさみしさを置き去りにしないよう、控えめだった。

「え、いっぱいって…どういうこと?」

彼は煙草を灰皿にもみ消すと、僕の頭を撫でてから、キスしてくれた。

不安のなさそうな彼の微笑みは、見ていて嬉しい。

「俺の仲間は、みんなお前のこと知ってる。「可愛い奴でさ」って話すと、「またそれかよ」って笑うよ。でも、歓迎してくれてる。お前が会ってみたいなら、今度飲み会でもしようかと思ってたんだ」

僕はその時、心底安心した。彼が昔のように、僕との関係に悩んだりしていないことで。それで、思わずほろりと涙がこぼれてしまった。

「泣くなって」

「だって…!嬉しいんだもん…!」

「うん、うん。よしよし、稔」

その時僕は、冷たく青白かった月の光が、淡く優しいと思った。




作品名:続・嘘つきな僕ら 作家名:桐生甘太郎