続・嘘つきな僕ら
「あ〜、くたびれた…」
ある晩帰ってきた雄一は、ソファでのびていて、すっかり疲れ切った様子だった。
僕はソファの脇に座り込んで、横になっている彼の頭を撫でる。
「大丈夫?最近、帰りが遅いから…」
「ああ…係長になってから、もちろん仕事は増えたし、週一の会議も、深夜だし…昼間は営業部は動き続けてるからな…」
僕は彼のおでこをさすってあげて、頬にキスをする。元気が出るように。
そうすると、雄一はこちらを向いて、微笑んでくれた。
「よく似てるぜ、あの頃と」
そう言った雄一の顔は、高校生の頃、がむしゃらに勉強をして、なんとか周りに認めてもらおうと努力していた時と、同じだった。
“お前が居るから、頑張れるんだ”
そう言った時と。
「家に帰ればお前が居る。そうじゃなきゃ、俺は何もできない…」
急に彼の声は尻すぼみに小さくなり、雄一は顔を横に向けて床に目線を落とした。
もしかしたら、雄一は不安だったのかもしれない。くたびれ切るまで仕事をしなくちゃいけないことが。
俯いた雄一は少し辛そうな表情をしていて、寂しそうだった。僕はもっと雄一に近寄り、ソファにもたれかかるようにして、彼の体を抱く。何も言わずに。
僕は目を閉じて、彼の肩のあたりに頬を当て、雄一が話すことを聴いていた。
「俺には…俺の支えは、お前しかない。今さら離れ離れになることなんかないと知ってても…」
小さな声でつぶやく雄一の声は、同級生と喧嘩をして、それを悔しそうにこぼしていた時みたいだ。
僕には、言いたいことがあった。だから、ゆっくり口を開いて、優しく、でもしっかりとこう言った。
「ないよ、雄一」
雄一は、ソファの上で顔を上げて僕を見る。その目を見つめて、僕は彼に素直に向き合った。そうすると、どうしても笑いたくなる。
君の前では、素直に笑えるんだ。
「僕たちは、離れ離れになることなんかない。ずっと一緒に居るよ」
そう言ったら、雄一も嬉しそうに、穏やかに微笑んでくれた。