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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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続・嘘つきな僕ら

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その時僕がどれだけ驚いたのかなんて、正直に言うとわからない。とんでもなくびっくりしたような、もしくは何も思わなかったような気がする。

だって、僕は雄一以外からも想われる自分には、想像が至らなかった。だから、鈴木君の言ったことが本当なのかも、全然わからなかった。

“でも、すぐに返事をしたら、傷つけるんだろうな”

もはや、どんな風に気遣おうとも、鈴木君が傷つくのはわかっていた。だって僕にはもう恋人が居る。それを彼に言ったら、もちろん彼は落ち込むだろう。

だから僕は、充分に時間が過ぎていくまで、鈴木君を見守ることにした。多分、彼には話したいことがたくさんあるんだろうから。

鈴木君は下を向いたままで、自信がなさそうに、そして何かの罪を償おうとするように、僕に気持ちを告げた。

居酒屋の雑音にその声は時折阻まれ、彼の声は小さかった。

「僕は…あなたが優しくて、可愛らしいと思っているだけです…ほかに考えていることはありません…もちろん、僕は男性だから、こんなことを言われるなんて思ってなかったでしょうし…気持ち悪いと感じても、僕はあなたを責めたりしません…」

“ああ、やっぱり同じことで悩むんだ…”

僕はなんとなく、“このあとは彼を慰めてやらなきゃな”と思っていた。

鈴木君は僕の目をちらりと見てから、深く傷ついたように顔を背けて話をする。彼は両手をずっと膝に乗せ、背中を丸めていた。

「断られるのはわかっているし、僕とはもう付き合いたくないでしょう…でも、でもどうか…心の中でよく思っていなくても…このことを誰かに話すのはやめてください…それだけは、お願いします…」

その時にやっと、僕は口を開くことができた。彼が必死に悩んでいることが僕とほとんど同じで、だからこそ答えをあげられるのが、嬉しいくらいだった。でも、胸は痛む。

「そんなこと、しやしないよ。僕からも話すことがあるし」

“どうしようかな。でも、ここまで来たら話してあげた方がいいよな…”

その判断が正しかったのかはわからない。でも、それでなんとか上手く運んだ。

僕はテーブルに少し身を乗り出す。鈴木君は、それを怖がるように身を引いた。

「僕にはね、恋人がいる」

それを聴いて、彼は泣きそうな顔で僕を見た。僕は一つ頷いて見せる。

“彼は納得してくれるだろう”

僕はあまり悩まず、雄一のことを思い浮かべながら喋った。

「僕の恋人も男性で、とても僕に優しくしてくれる。ずっと昔、学生時代からの付き合いなんだ」

そんなことまで話す必要はなかったはずなのに、僕は初めて人に打ち明けられたのが、ちょっとだけ嬉しかった。でも、僕の恋人として名乗りを上げることができなかった鈴木君を、もしかして深く傷つけていやしないかと、僕は彼の様子を窺う。

顔を上げて彼を見てみると、鈴木君はとても驚いていたようで、口をやや開けたまま、ぽかんと僕を見ていた。

「びっくり、した?」

そう聞いてみると、彼は黙ったまま、急いでこくこくと頷く。

「そうだよね、だから、僕たち同じことに悩んでるんだ、それで…」

僕はその時、ちょっと気が咎めたので言えなかったけど、本当は、同じ目線を持つ者として、彼に自分の恋を相談してみたかった。でも、そんなことをしたら彼はたまったもんじゃないだろう。

でも、鈴木君はこう言ってくれた。

「あの…僕…僕たち…」

彼はまたおずおずと言いよどみながらこう話す。

「相談相手、くらいに…なれませんかね…」

それは願ってもない申し出だったけど、つい今しがた恋心を破られておきながらもそんなことを言える鈴木君は、すごいと思った。

僕はもちろん「はい」と言いたかったけど、すぐに返事をするのはやめた。

充分に間を置いて、その間実際に悩みながら、彼の気持ちを優先して考える。

「でも…いいの?」

そう言うと彼は迷い始めたけど、やがてはそれを振り切るように首を振り、今度は顔を上げて真っ直ぐ僕を見つめた。

「お互いに、こんな話をできる人間がいないと、困るでしょう」

正義感か、僕への思いやりか、おそらくそのどちらもを抱えた様子で、彼は僕を見てくれている。それが申し訳なくて、有難かった。

「ありがとう。じゃあ、何かあったら、ちょいちょい呼んでもいい?かな…?」

「はい!」

その時の鈴木君は背筋を正してはっきりと返事をしていた。僕は彼に一度頭を下げてお礼を言い、それから二人で食事に掛かった。




作品名:続・嘘つきな僕ら 作家名:桐生甘太郎