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二人一役復讐奇譚

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。ちょっとした行動に、時代錯誤があるかも知れませんが、時代考証は少しでたらめと思っていただければ、いいかと思います。たぶん、可愛いと思われる程度で、気付かない人もいるかもです。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。

            断崖絶壁の吊り橋

 女は男を好きになると、まわりが見えなくなるというが、本当であろうか?
 好きになった相手のためであれば、何でもしてあげたくなる。相手が何を望むかということよりも、望まれたことをしなかったことで相手が自分を捨てるのではないかと思うと、その恐怖は次第に強くなり、収まりがつかなくなってしまうことを認識した時、あらためて、自分がその人に惚れているということを認識するのかも知れない。
 そこにお金が絡んでくると、かなり厄介な話になってくる。相手はそんなつもりはなくとも、女性側が男性のためにいくらでも工面してあげるような気分に陥ってしまうと、男性も甘えが出てしまい、中にはヒモのようになってしまうやつも出てくるだろう。
 女はそれでもいいと思う。自分が尽くすことで、好きになった相手を助けてあげたという満足感が自分を支配してしまうと、もう完全に自分に酔ってしまい、相手の男性を好きだというよりも、健気な自分への愛を恋愛感情と誤認してしまい、相手の言いなりになってしまうこともある。
 そうなってくると、逆に相手に尽くしていない自分は、本当の自分ではないなどという錯覚に陥り、健気さという自己満足がなければ、相手に関しての愛情ではないと思うだろう。
 愛情がなくなるのは、相手に嫌われるよりも怖いことだ。しかも、相手に尽くさなくなってしまうと、愛情がなくなったことになり、相手が自分を嫌っているという思いを一緒になり、自己嫌悪が二倍になるだろう。
 相手の気持ちは変わっていないのに、勝手に自分だけで盛り上がって、勝手に悲劇のヒロインを演じてしまう。ここに悲劇が完成するのだが、その理由のそもそもは、好きかどうか分からない相手を好きになるきっかけから、間違っていたからに違いない。
 女性が我に返った時、男性は豹変していた。
 相手の女性の魔力に引き付けられてしまい、逃れることができなくなり、相手の甘い誘惑が、その男を腑抜けにしてしまった。
 女の方も男に貢ぐだけ貢いだ挙句、貯金も使い果たし、借金まで背負っていることになってしまった。幸い、今なら何とか返していけるだけの借金ラインであったが、これ以上相手に貢ぐことは、我に返った彼女には到底できることではなかった。
 だが、相手の男を腑抜けにしてしまい、自分がいなければ生きていけないほど惚れさせてしまった自分の罪深さを感じた時、このまま見捨てるわけにもいかず、結局ズルズルと来てしまい、無駄な時間を過ごすことになってしまった。
 それでも何度か、彼女は男に対して、
「あなたも男なんだから、しっかりしてよ。私にばかり頼っていないで、少しは働いてよね」
 というと、男はそれを聞くと、怒ったりまではしないが、いかにも面倒臭そうにふてくされた表情をして、
「ああ、分かったよ。職探しすりゃあいいんだろう?」
 としか言わない。
 女性は名前を津軽恭子という。今年二十五歳になったが、四年生の大学を卒業し、地元の禁乳会社の事務員として就職した。そこで知り合ったのが、秋田省吾という男で、直属の上司であり、どうやら、恭子が入社してきた時から、意識していたようだ。
 その証拠に、入社式が終わり、所属部署が決定してから配属された部署で、初めて会ったはずの恭子に対して、秋田の表情は、
「まるで幽霊にでも遭ったかのような表情」
 をしていたのが印象的で、その瞬間、恭子の方も秋田という男に対して電流が走ったような衝撃を感じた。
 それだけ秋田の視線には痛みを感じさせるほどの力があったのだ。
 秋田は、最初の頃は優しかった。しかも、男として決めるところを決めようとすると、ちょっとしたミスをしてしまうことがあった。
 まだ、付き合うと決まったわけではなかったが、彼からデートに誘われた時、彼の車で出かけたのだが、帰りがけに、何と彼がキーを車の中に差したまま、ロックを掛けるというような情けないところがあった。
 そんな彼を見て、
「本当に情けないわね」
 というと、彼は真剣な顔で落ち込んでいたのを、恭子は、
――なんで、ここまで落ち込むの?
 と、相手の気持ちが分からなくなるほどの距離を最初に感じたのだが、それはあくまでも最初だけのことだった。
 自分にないところを持っている相手に興味を持つのは、好奇心からだけであろうか。実際にはそんなことはないだろう。そこに恋愛感情が絡んでくることもあることは、普通であれば、想定内のことだ。
 それをきっかけだと思わないと、男女が付き合いたいと思う相手にまで発展しないのではないかと恭子は思っていた。
 男の方はどうだろう?
 これも人によるのだろうが、そんなきっかけなどなくても、相手を好きになることはあるかも知れない。だが、それが付き合うということに発展するかどうかは、あくまでも相手があってのことである。相手との距離を縮めるという意味で、相手が自分に対して恋愛感情を抱いてくれていると、たとえ誤認であっても、そう思い込むことは、自分が男性として相手にアプローチを掛ける一つの正当性のように思えた。
 だが、秋田省吾という男は、最初は本当に控えめな男性で、女性と話をするだけでも緊張し、何しろ、キーを車の中に忘れるなどという、実に滑稽な行動をするくらい、女性に対して免疫を持っていなかったのだ。
 ただ、彼には女性に対して大いなる好奇心を持っていた。それを表に出さなかったのは、女性とどう接していいのか分からなかったからで、女性の方方近づいてくれたりなんかすると、そのウブな面が、一気に噴き出すというわけだった。
 だが、彼がそんな情けない態度を取るのは二人きりの時だけであって、会社では本当に頼りになる上司だった。
 ミスをした部下に対し、温厚な態度で接したり、考えが甘い部下に対しては、毅然とした態度を取る。相手によって自分を使い分けるテクニックは、
「さすが上司」
 と思わざる負えないほどだった。
 秋田と付き合い始めたのは、入社してから半年もしないうちからだっただろうぁ。きっかけは社員旅行の時だった。
 二人きりになれる機会があり、その時、恭子は初めて気になっていたことを聞いてみたのだ。
「秋田さんを初めて見た、入社式の後の配属の時、あなたは私を見て、何か驚かれたような気がしたんですが、あれは何だったんですか?」
 と聞いてみた。
作品名:二人一役復讐奇譚 作家名:森本晃次