火曜日の幻想譚 Ⅴ
506.とても大事な待ち合わせ
「遅い……!」
あいつは時間通りに来た試しがない。やたらと待たされることもあれば、気付いたらすぐ隣りにいたりもする。いつだって気まぐれなやつだ。
だが、自分から会いに行くほどのやつじゃあない。なんとなく、それをするのは負けな気がして仕方がない。本当に厄介なやつなんだ。
「…………」
目を凝らしてあいつの影を探し求める。しかし、やってくる気配はない。こりゃあ、なんかおごってもらわなきゃ割に合わん。そんなことを考えながら、行き交う人々を目に入れる。
……いろんな人がいる。せかせかと歩く人、ちんたらと歩く人。目的地に向かっているのであろう人、あてもなくブラブラしてると思われる人。一緒に歩く人、単独行動の人……。
こういった人々を見てるのは、決してつまらなくはない。いや、面白いから、あいつが遅れてくるのを許せてしまうんだろう、小憎らしいがそう思わざるを得ない。
そうやって、いろいろな人の人生を垣間見ていると、向こうから何やら物音が聞こえてくる。ものすごいスピードを出した車が、こちらへと向かってくるのだ。
「おお、やっと来たか」
車はますますその勢いを増してこちらにやってくる。そして次の瞬間、わしを思い切り弾き飛ばした。わしは致命傷を負って道路に倒れ込み、車は後ろの建物に突っ込んで、ようやくその動きを止める。
全く、今世はずいぶんと遅かったじゃないか。前世は楽しむ間もなく来やがったのに。来世はもっとうまいタイミングでやって来てくれよ。
ああ、それと今回、遅かったから、三途の川の渡し賃、六文だったっけか、おまえのおごりってことでいいな。
「死」は済まなそうに頭をかいて、わしの手に六文銭を握らせた。