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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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507.帳尻合わせ



 近所に、かつて病院だった場所がある。

 以前は産婦人科だったそこは、僕が生まれたとき既に病院としての機能を失っていた。だから、僕はその場所を病院だと思ったことはなく、病院だった場所という認識しか持っていない。
 閉鎖した理由は、どうもあまり腕が良くなかったかららしい。だがもちろん、今となっては確かめようもない。お医者さんはどこへ行ったか分からないし、下手したらもう物故されている可能性も高い。

 さて、近所にそんな病院の跡地があるとなれば、若い人たちはじっとしていられない。深夜、興味本位や度胸試しで忍び込むものが出てくる。案の定、そこで赤ん坊の鳴き声を聞いただの、とある部屋に、たくさんのホルマリン漬けの赤ん坊があるだの、といったうわさが飛び出してくる。
 かくして、その地はいつのまにか、有名な心霊スポットとなったのだった。

 ところでこの場所、専門の方に言わせると「本物」だった上に、かなり質の悪いやつがいたらしい。そのせいで、好奇心に任せて入り込んできた若者のうち、6人の命が奪われたそうだ。彼ら6人の死因は、変質者にからまれて命を落としたような、比較的はっきりしたものから、肝試し中の心臓の発作や、いわゆる発狂した後に亡くなった者など多岐にわたっている。しかし、被害者はこの6人以降はぱったりと途絶えており、今も心霊スポットとして健在ではあるけれど、それなりに安全な地になっている。

 先日、僕は図書館で郷土史料を調べていた。地元の歴史や文化財について調べていたのだが、それを調べている最中にちょっとした資料が見つかった。市内の病院別の出生人数表。僕はそんなのもあるんだなあという感想とともに表をながめてみた。
 今は心霊スポットとなっている件の病院は、3年しか開業していなかったようだ。そして、その3年間で、取り上げられた赤ん坊の数は、驚いたことに6人。
 6人。数の少なさももちろん驚くべきことだが、心霊スポットになってから、命を奪われた人数と一致している。

 何もこんなところできちんと帳尻を合わせなくてもいいだろうに。そう思いながら僕は資料を閉じた。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔